鉄仮面とは、18世紀フランスのバスティーユ牢獄などに、34年もの間収監されていた囚人である。1669年にルイ14世の勅命によって護送されたこの囚人は、鉄の仮面で顔を覆っており、その素性はほとんど誰にも知られることはなかったとされている。
その神秘性から、小説家アレキサンドル・デュマの小説の題材ともなり、その他多くの著作などでその正体が推測されることとなった。
鉄仮面については、他の囚人は鉄仮面との会話が決して許されなかった、食事は特別なメニューが与えられた、調書類は別途用意されていた、というように特別な待遇を受けていたと言われており、その総責任者は陸軍大臣であったという。また、最初に護送されたピネロル監獄で看守長を務めていたサン・マルスがバスティーユ牢獄に転任する際は、鉄仮面も同所に移送されたという。
ルイ14世が生前、後継者15世が成人した際に教えるよう甥にこの鉄仮面の正体について託し、それを教えられた15世はついに誰にも鉄仮面の正体を告げることなく亡くなったと言われている(鉄仮面にまつわる多くの逸話については後年の脚色も多々なされていることは注意して欲しい)。
鉄仮面の正体について強く唱えられていた説は、「ルイ14世の兄(あるいは双子の兄弟)」であるという説だ。1751年のヴォルテール作『ルイ十四世の世紀』では、すでにこの説をベースとしているのであろう鉄仮面の説明がなされており、のちの後継者問題に絡むことを危惧した末に幽閉したものではないかという仮説がデュマの著作にも反映されることとなった。
しかしながら、現在ではこの鉄仮面の正体はほぼ確定に至っているようである。彼の名前は「ウスターシュ・ダンジェ」という名の男性であったという。彼は、ルイ14世の下で大蔵卿を務めたのちに失脚したニコラ・フーケの従僕だった人物であり、ある国家機密を知ってしまいそれが表に出ることを防ぐために幽閉されたと考えられている。
それでは、なぜ早急に殺すなどの処置をとらなかったのか。実は鉄仮面をつけるようになったのはルイ14世の意向ではなくサン・マルスのアイデアであったという。彼にとって、フーケなどの大物囚人は自分の名声に寄与する重要な存在であったのだが、移任によってそれが瓦解してしまう恐れがあった。
そこで、過度な警戒態勢を敷くほどに丁重な扱いを受ける正体不明の囚人の存在を作り上げ、看守長である自分の采配ですべてが決定するのだという権力的欲求を得ようとしたのではないかというのである。
鉄仮面とは、ある一人の人物による工作で仕立て上げられた、幻の存在だったのだ。
【参考記事・文献】
歴史の裏側を探る会『世界史を動かした陰謀』
ジャン=クリスティアン・プティフィス『世界史を変えた40の謎 中』
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(黒蠍けいすけ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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