外出の際にネックウォーマーに首を通す度に思い出す体験が有ります。
大学三年の晩秋、私は学園祭の野外ステージのメインスタッフとして、舞台設営や照明機器の設営を担当していました。設営日の野外はかなり冷え込み、汗が直ぐに冷たく体を冷やして風邪をひいてしまいそうでした。
そんな時、ふと女性の声に呼び掛けられ、振り返ると演劇部在籍中に同学年だった女性が紙袋を持って立っているのを見付けました。
その女性は、私に持っていた紙袋を差し出し「誕生日には間に合わなかったけど、良かったら使って」と言いました。私が紙袋の中を覗くと、手編みの白いマフラーが入っていました。
彼女が私に好意を抱いているのは知っていましたが、私は彼女に特別な感情が無かったため素っ気なく、気が付かない振りを通していました。しかし、それを付き返すのもどうかと考え、「ありがとう」とだけ言って受け取り、走って控室の中に置いて作業に戻りました。
設営が或る程度落着き、18時頃から様々なチェックとリハーサルを行いました。その時、同級の司会担当の女性がステージの横で
ガチガチと震えながら台本を読む練習をしているのを見かけた私はマフラーの存在を思い出し、控室から先程のマフラーを持ってきて彼女に貸してあげました。
彼女は「温かい!ありがとう!」と喜んでいたので安心して自分の仕事を続けていました。
ところが、まもなくリハーサルを行う段になって、舞台の袖が騒がしくなっていて、様子を見に行くと、先程の司会の女性を取り囲む様に人垣ができていて、話を聞くと、突然司会の彼女の声が出なくなったという事で急きょ、代わりの司会を探さないといけないという事になっていました。
状況が良く分からなかったので、その場を離れると、その司会の彼氏が追い掛けて来て私にマフラーを返してくれました。
「風邪?」って聞くと、彼氏は「分からない。突然、ガラガラ声になって息が苦しいって言ってる」
「そうか」と言い返して、私は更に準備を続行しました。そのステージではスターダストレヴューのライブが予定されており、マネージャーとして山田パンダさんが来ていたのでスタッフは全員ピリピリとした緊張感でバタバタしていました。
そんな中、私はスタッフの下級生にキャストとスタッフ全員に暖かい飲み物を買ってくるよう指示しました
実は、買い出しをお願いした下級生は、私が秘かに恋心を抱いていた女性で私はスクーターで出掛けようとする彼女に 先程のマフラーを首に巻いていく様に渡しました。
それが、どんなに浅はかな行動だったか、私は1時間後に知る事になりました。
彼女は帰って来れなかったのです。大学構内から出たところで交通事故に巻き込まれて、病院へ搬送されてしまったからでした。
『まさか、あのマフラーが?』確信は持てないままでしたが、命にはかかわらず無事に退院してきた彼女に聞いたところによれば、一般道路にスクーターで走り出た瞬間、マフラーが首を締め付け、後方へ凄い力で引っ張られて走行する車の前に投げ込まれた。という事でした。
その時に、マフラーは私の手元に帰ってきましたがどうしても家に持って帰る気にはなれず、部室の前で燃やしました。
それ以来、私は手編みのマフラーもセーターも受け取る事は無くなりました。
(アトラスラジオ・リスナー投稿 白狐さん ミステリーニュースステーションATLAS編集部)