妖怪・幽霊

【ゆめこの実話怪談】最後の挨拶に来てくれた体育の先生

私が当時通ってた小学校は実家から少し距離があり、また私の両親は共働きで朝が早いため、自分も家を早く出なければなかったのです。毎朝、小学校に着くのは先生並みに早かったことが思い出されます。そのため、通学路は人があまりいませんでした。

実家の近くに高校があります。よく通学途中にこの高校に勤務している女の先生とすれ違っていました。

いつも、おしゃれなジャージを着て髪が短くボーイッシュ。あきらかに体育の先生だな、という感じでした。話をしたことはありませんが、お互いに「いつも会うな」という感じで意識はしていました。

一週間か10日くらいでしょうか・・・急にその先生に会わなくなりました。




そして1学期の終業式に忘れられない出来事がありました。

「少しづつ学校の物を持ち帰りなさい」と担任の先生に言われ続けていたのですが、ずっとそのままにしていたことで終業式当日には自分の周りの持ち物が凄い量になっていました。

防災頭巾を被って、ランドセルに背負い、紙袋に道具箱と絵の具セットを入れて持ちながら、朝顔の鉢植えを両手で抱えるような大荷物です。

根性根性ど根性!とにかく気力で持ちながら、家路につきました。

“ガシャン!”

急に紙袋が敗れ道具箱が道に散乱。中の物が道路のそこいらじゅうに転がりました。

すると張りつめていた気持ちが切れ、涙が出て来ました。

「ああ、派手にヤッちゃったね。」

道に散乱した粘土セットを道具箱に入れながら その人は言いました。

その人・・・そう、いつもすれ違っていたあの近所にある高校の女教師です。

一緒に道具箱を片付けると、蓋が空かないようにスズランテープでとめて、一緒に可愛い手提げ袋に入れてくれました。

「腕がいたくなるから道具箱と絵の具バックを違う手で持つんだよ」

そして朝顔の鉢植えは先生が持ってくれました。




私の家の角に差しかかった時に「あそこの○○屋さんの横です」と言い振り向くと、すでに先生はいませんでした。前を向くと朝顔の鉢がいつの間にか家の前に置いてありましたのです。

仕事から帰ってきた母親にその先生に助けてもらった話をすると、お礼をしにいこうということになり、二人で先生の勤めている高校に尋ねることにしました。

よく会っていたので身体的な特徴は完璧に私も母も知っていました。そして先生の名前を知らない私たちは、彼女の特徴を伝えました。すると、対応した先生の顔が、あからさまに曇ったのがよく判りました。

「少しお待ち下さい」

しばらくすると強ばった顔の校長先生がやってきて、そのまま校長室に通されました。

その先生は実は一週間前に交通事故で亡くなったそうです。




それから数日後 母は近所の人からこんな目撃談が聞かされたそうです。

「ベランダで花の水やりしていたら、夢子ちゃんが荷物沢山持ってて、声かけようとしたら朝顔の鉢植えが浮いてるのよ。なんだか近づけなくて・・・」

きっと先生は私に最後の挨拶をしに来てくださったんでしょうか。

(夏目夢子 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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