ローマ帝国が栄えていた頃、295年から325年の間に作られた美しいガラスの盃「リュクルゴスの聖杯」というものがある。
現在は大会植物館に所蔵されており、ガラスの周囲に題材となったスパルタの王リュクルゴスの死の様子をあしらったものとなっている。1800年頃に金によって縁と足が追加されたが、20世紀に大英博物館に収蔵された後に一度本来の姿であるガラス部分のみと分割された事もあった。
フランス革命の時代に教会が所有していた財宝の一つとして収奪され、19世紀にロスチャイルド家の手元に渡り20世紀に入ってから大英博物館に20,000ポンドで売却され、以降は所蔵品の一つとなっている。
この杯の最大の特徴は、光の当たり方によってその色を変える点だ。正面から光が当たっている時は不透明な緑色なのだが、裏から光が当たると光が透け、美しい赤へと姿を変えるのだ。
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Ancient Cup Made With “Nano-Technology?”
長年の間、変色する仕組みは芸術的にも科学的にも謎とされていたが、近年イギリスの研究チームによってその秘密が解き明かされた。このガラス部分には銀330gと金40gが配合されており、コロイド粒子としてガラス内に沈殿する。
これらガラス内の微粒子が光を浴びると原子が振動し、光の透過度と色を変えるという仕組みが判明したのだ。この構造は光学顕微鏡ではなく透過型電子顕微鏡が必要であったため、近年になってようやく構造が判明したというものだった。
このガラス盃はローマ帝国の少なくとも3つ以上の工房で製造されたと見られており、光の加減で色が変わる仕組みは工房でもよく分かってはいなかったのではないかと見られている。同様の構造のガラス製品は約1世紀ほど造られていたようだが、その後技術は失伝している。そのため、「謎の原理で色を変えるガラスの盃」と考えられたものとみられている。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像&動画 ©Mystery History YouTube