それでも、Nさんの心には妙な不安感がつきまとった。
数日後、不安に思うぐらいならと思い、普通に近況を聞く形で何か起きていないか、電話をかけてみることにした。だが、友人は電話に出なかった。
昼間だったため、きっと忙しいのだろうと思った。数時間後、夜になって友人の番号から折り返しの電話がかかってきた。出てみると、友人の奥さんだった。
「実は昨日、Aが仕事中に倒れて、まだ意識が戻らないんです。そちらにもご連絡しようと思っていたところでした」
そう言われた。脳卒中だという。お見舞いに行く事を告げ電話を切ったが、胸の動悸が収まらない。またも、娘の会話が当たってしまった。
それにあの「もうそーつ」という言葉。あれは「脳卒中」という聞き慣れない難しい言葉を、娘なりに再現した言葉だったのではないか。だとすれば、病名すら正確に言い当てていたことになる。
Aさんは怖くなった。娘の予言めいた会話で起こるのは嫌なことばかりだった。それに段々と内容が危険なものになっている。
その日、Aさんが帰宅すると、既に娘は寝ていた。大事そうにあの携帯電話を握りしめて寝ていたが、こっそり娘の手から取るとゴミ袋に入れ、翌朝、ゴミ収集に出してしまった。
(※続く)
(監修:山口敏太郎)
画像©PIXABAY