今から15年程前に当時大学生だったFさんが体験した話である。
Fさんは、当時横浜市の某町に住んでいた。そこは大学があるため学生が多く住んでいたが、古い町並みも残っておりどこか不思議な感じのする町であったという。
ある日のこと、次の講義まで時間があったため、大学の回りを散歩していると、怪しげな骨董品屋があることに気が付いた。
(こんなところに骨董品屋なんてあったかな?)いぶかしげに思ったFさんだが、興味を惹かれ店内に入り中を物色してみた。
すると妙に気になる絵を見つけた。
それは、奇妙な図柄で構成された抽象画のような絵で、同じよう絵が4枚あった。
一つ目は丸と四角で構成された図柄の上に二人の人間が描かれていて、飛行機か何かの乗り物に人間が乗っているような絵だった。二つ目は四角の中に二人の人間がいる絵で、片方の人間がもう一人の人間に寄り添っているような絵だった。三つ目は三角形の物体と二人の人間がいて、一人の人間と三角形は線でつながっていた。四つ目は小さな人間と大きな人間がいるだけの絵で、二人の人間が楽しそうに遊んでいるような絵だった。
人間らしきものは頭と体だけという抽象的な描き方をされていて、前衛芸術に見えなくも無い絵だった。
何を表現したものかわからなかったが、4枚の絵は恋人同士の関係を表現しているようにも見えた。当時、現代アートにかぶれていたFさんはその絵に強く惹きつけられてしまった。その絵は4枚とも小さなサイズの絵で、狭い自分の部屋に飾るにはちょうど良いと思った。
店主に値段を聞いてみると、作者が誰かもわからない絵なので、1枚1000円、まとめて買ってくれるなら3000円で良いとのことだった。一人暮らしをしている貧乏学生のFさんにも手が出る手頃な値段だったこともあり、Fさんはその絵を購入し、部屋に飾ることにした。自分の部屋に絵を飾るということが、どこかかっこ良い気がしたし、また作者がわからないというのも良かった。
無名の絵を所有するということが、自分は絵の価値がわかる人間なんだということをそれとなくアピール出来るような気がしたのだ。現にFさんは友人や仲良くなった女の子が家に来る度に、絵についての自分なりの解釈を語っていたのだという。
それからしばらくしたころ、アルバイト先の友人から連絡が入った。その友人は激しく取り乱していた。
Fさんと仲のよかったバイト仲間が自転車に乗っている時に事故で死亡したとのことだった。(※続く)
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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