急に寒くなったり、暑い日が戻ってきたりと、季節の変わり目は風邪を引いたり体調をくずすことが多い。
そんな季節と体調の変化を表したような妖怪にまつわる伝説が各地に存在している。
例えば東京都青梅市には風の妖怪「百いらず」の伝説が残っている。
山から吹きおろしてくる風にはひときわ寒く冷たい風があり、この風に当たることは非常に不吉であるとされていたため、この風が吹いてきたときはたとえ道に百文(現代の金額に換算すると、約2万円)が落ちていても拾わず一目散にその場から逃げ出すべし、と考えられていた。
当時の人々に現代と同様の医学知識があったとは考えにくいが、空気感染による病気の媒介や蔓延、また風邪の諸症状にある悪寒などを表現した結果生まれた妖怪だといえるかもしれない。
こちらは青梅の伝説であるが、他にも当たると不幸を起こす「みさき風」や「絵本百物語」にて紹介されている病気になる黄色い風を吹く「妖怪風の神」など、風の妖怪は多く伝えられている。
「風の神」は江戸時代の書物「絵本百物語」にて紹介されている妖怪で、「神」といっても風神雷神のような神聖な存在ではなく、一種の邪気を操る存在のことである。風に乗って様々な所に現れ、物の隙間や暖かさと寒さの隙間を狙って入り込み、人を見れば口から黄色い息を吹きかける。その息を浴びた者は病気になってしまうとされている。事実、挿絵には青い腰巻きをした風の神が、口から黄色い風を噴き出している様子が描かれている。
昔から日本では空気の流動は農作物や漁業の結果を左右すると考えられており、いわゆる流行性感冒の「風邪をひく」も、この風に対する民間信仰を元にしていると考えられている。恐らくこの「悪い風」をイメージ化したものが『風の神』なのであろう。
また同書では「黄なる気をふくは黄は土にして湿気なり」と述べられており、これは中国黄土地帯から飛来する黄砂のことであり、雨天の前兆や風による疫病発生を暗示しているものといわれるている。黄砂と大気に含まれるPM2.5に悩まされる現在の我々も、ある意味で『風の神』に悩まされているのかもしれない。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像は『竹原春泉画『絵本百物語』(1841年)より「風の神」』