1908年、インディアナ州の大きな牧場主の家が火事で全焼した。焼け跡からは首のない女性と3人の子供の焼死体が発見され、女性は亡くなった夫に代わってこの農場を経営していたベル・ガネスではないかと考えられ、何者かが殺害した後に放火したのではないかとみられた。だが、実は彼女にはある疑惑が存在しており、警察がマークしていた人物でもあった。
彼女はノルウェーで生まれ17歳でアメリカに渡り、最初の夫と結婚。だが、この結婚生活は長く続かず、夫の事故死で幕を閉じる。それから数年後、農場主のピーター・ガネスと再婚するが、再び不幸な事故で夫を亡くしてしまったのである。
彼女は農場の今後の経営も考えてか、以下のような広告を新聞に出した。
「結婚相手募集。インディアナ州にて農場を経営しています。共同経営できる資産と教養に溢れた紳士を求めます」
案の定、彼女の元には全米から求婚の申し込みが殺到した。彼女はそんな申し込みを選別し、見込んだ男性にこのような返事を送った。
「財産目当ての人物を避けるために、担保として相当額の現金ないしは有価証券を持参してお越し下さい」
こうして彼女は共同経営者と見込んだ男性と交際を始めるのだが、一向に相手は見つからず未亡人のままだった。それだけでなく、彼女の元を訪れたきり音沙汰がなくなり、行方不明になる男性が続出したのである。男性の家族が不審に思って警察に相談、警察が本格的に捜査を開始しようとした矢先に起きたのが農場火災だった。
そして、全焼した彼女の家や農場の敷地からは13体もの男性のバラバラ死体が発見された。いずれも殺害された痕跡がみられ、中には行方不明の届け出が出されていた男性の死体もあった。
後に、放火の罪で農場の手伝いをしていた男性が逮捕され、ベル・ガネスの犯行に協力していたことを告白。彼女は過去に夫に先立たれた際、どちらも高額の保険金を手にしていた。偶然大金を得られた事から、彼女は保険金詐欺や未亡人ビジネスを思い付いてしまったのだ。
そして手紙で誘い出された資産家の男性を殺害し、金を奪い取って敷地に埋めていたのだという。なお、彼女は殺人を犯す前にも経営する店舗で火災保険金を受け取ろうとしたが、こちらは保険会社の査定に引っ掛かって支払われなかった。
彼女が殺害したとみられる男性の人数は80人から150人。正しく女性版の「青鬚」、今でもアメリカの犯罪史上最悪の女性殺人鬼とされている。
なお、実は彼女は火事で死んでいなかったとする話がある。協力者は、ベルの指示で浮浪者を殺害してベルの服を着せ、別人と解らないように首を落として焼いたのだという。
これが確かならば、彼女は自分が逃げるために自らの子供すら利用したと言うことになる。稀代の女性殺人鬼は、一人だけ逃げおおせて何食わぬ顔で生活していたのかもしれない。
(田中尚 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)