大映「妖怪大戦争」、「ゲゲゲの鬼太郎」で知られるメジャー妖怪「油すまし」だが、地元、熊本県栖本町に妖怪「油すまし」の墓と言われる石像が現存するのが確認された。2010年10月1日に町文化財に指定されている。地元で石像は「油すましどん」と呼ばれているという。この「油すましどん」は首のない石の仏像が両手を合せた姿をしている。この石像は、栖本町河内地区の山中にあったのだが、約四十年ほど前の町道拡張工事の際、私有地に移転された。
山口敏太郎事務所でも、熊本県栖本町に飛び、町役場関係者の案内のもと現場に到着し、この「油すましどん」を撮影した。なお「油ずまし」が正しい発音とする見解もあるが伝承者を含め同地では「あぶらすまし」と発音されている。
郷土史家の浜田隆一氏の著書『天草島民俗誌』には、峠道で老婆と孫が歩いている時、老婆が油すましのことを思い出し、「ここには、昔、油瓶下げたのが出たそうだ」と言うと、「今も出るぞ」と言って油すましが出てきた、という言い伝えがあるとされている。
このエピソードだが、同じく浜田氏の『天草島民俗誌』にある「うそ越」という場所の話によると、
二人の旅人が夜おそくここを通りかかって、「昔はここに血のついた人間の手が落ちて来おったそうだ」と言って、お互いにぞっとして顔見せた瞬間に「今も――」と声がして血の滴る手が坂を転び落ちてきた。二人は吃驚して思わず早足になり、少し行ってから、また「ここには生首が落ちて来おったそうだ」というとすぐにまた上の方から「今ああ……も」と声がして恐ろしい生首が眼の前にころころと転げ落ちてきた。二人はもうたまらず一所懸命に駆けだした。
というものがある。
出現場所は違うのだが、油すましの言い伝えと酷似した言い伝えであり、こちらのほうがやや残虐色を帯びている。この話はイマモという妖怪の仕業とされているのだが、この話を基にして油すましどん=イマモと考える人々もいるようだが、イマモの出現場所は熊本県天草諸島下島と油すましとは異なっており、その真偽は不明のままだ。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像『水木しげる イラストレーション カードスリーブ「油すまし」』