事件

怪談師・渋谷泰志氏の実話怪談「宇治市役所にて・・・」

妻と2人で市役所の福祉課に訪れた。16時30分に来る様、連絡があったが10分遅れで到着した。

長い机の奥、つまり事務所から、年の頃30前後の男性が現れた。私たちの担当者だ、その方と長いテーブルを挟み、我々夫婦は椅子に座った。福祉課での話内容は省略するが、ほとんど妻が担当者と会話し、そのポイントの突っ込みを、俺がする感じだった。

そんな時俺の携帯が鳴った 閉店前のホールに俺の柄が悪い関西弁がこだまする。さらに、俺はトレードマークである黒マスクをしている。役所の方々は、やにこい(ひ弱い)おっさんだと思っていただろう。

席に戻り、3人で話し中に異変が起こったのだ。




「ドタ~ン!!!」

俺の座っている椅子の腰掛け板と背もたれ部が外れ床に転んでしまったのだ。俺自身何が起こったのか解らなかった。ただかっこ悪いと思いすぐに立ち上がった。

それは、椅子の固定金具、つまり座席シートのネジが外れ見事にバラバラになっていた。俺の体重が重いのでは無い。あるべきはずの固定ネジ4本中3本が無く、1本で支えていたらしく、その最後の1本が俺が座っている時に外れてしまったらしい。

市の職員達は、真っ青になり「大丈夫ですかぁ」と、俺がこの事で暴れると思ったらしい。

俺は至って冷静に紳士的に対応、「私で良かったですね」と、もし、お年寄りの方なら骨折の恐れや救急車を呼ぶはめになる事を伝え、すぐに、このフロアーの椅子を点検する様アドバイスした。

その時妻の座っていた椅子も同様、4本中2本が抜け落ちていたのだ。

市の方もバリアフリーをいろいろとやっているが、肝心な椅子がこうではと、帰り際妻と話していた。妻は俺が椅子から転げ落ちたとき、「大丈夫?」の一言も無かった。

まるで俺が椅子を壊したかの様に「あんた何してんの?」と。俺はどっきりカメラかと思ったが・・・

そんな事が有り、4月12日の夕方。長男が、何を思ったか、いきなり「パパ銃撃ちに行こう」と言い出した。昼間にバイオハザードの映画を見ていたせいか? 銃といっても、電動エアーガンである。

そこで人気の無い山へ行く事にした。太陽ヶ丘えを抜け、天瀬ダム方面へと車を走らせた。

渋谷怪談1-2おじさんが椅子に座っていた歩道

時間は17時位だった。

トンネルを抜けると、長い下り坂、両サイドは宇治の霊園、火葬場を過ぎた辺りだった。道の左端に作業服を着た中年の男性が、こちらを向いて椅子に座り、俺の車を見ている姿が目に入った。

俺は「しまったぁ!ヤバイ!ねずみ取りだ!」と思い、急に速度を落とした。それもそのはず、今は春の交通安全週間なのだ。

「しかし、変だなぁ…こんな下り坂で?しかもマイクロ波のアンテナも無かったし?」

一瞬ヒヤッ!とした感触を味わった。

その時だった。カーブを曲がった所で道を横断している人達がいた。俺は急いでブレーキを踏んだ。

渋谷怪談1-3この左の道から右へと沢山の人が道を横断した場所

その人達は、30人程の年齢ばらばらの男女で左の霊園から右の霊園へと移動中らしい。

「やばかった!あの作業服のおっさんの姿で速度を落としていなければ、10人程まとめて引いていたかも」

そんな事故を起こせば、「また京都で人の列に車突っ込む」といった見出しで新聞及び、ワイドショーものだ。そう思いその人達が道路を横断し終わるのを待った。

その時である。




後部座席から長男が「パパぁ何してんの?」と言った。俺は我に返って前を見た。

すると、今俺の車の前を横断していた人達が忽然と姿を消していたのだ。左右確認したが誰一人道を歩いていない、人影すら無い。

俺は何を見たんだろう?まるで狐につままれた感じがした。

あんな沢山の人達が急に消えるかぁ?

長男に「今沢山、道渡ったはったなぁ」と、聞くと そんな人達見て無いとの事。急にスピードを下げて停車したものだから不思議に思い、お墓群で銃を撃つのかと思った事の様だ。

そんな訳無いだろう。しかし、椅子に座りこちらを見ていた、あのおっさんにしろ、道を横断していた魔物達、いったい何なのか、全く意味不明だ。

何らかの、これから俺に起こる、椅子にまつわるメッセージなのか?

語り:渋谷泰志