一昔前には、子供や人が姿を消してしまう「神隠し」という怪現象が存在していた。異世界に行ってしまったとも、天狗にさらわれたとも言われていたものだが、この内容を検証していくと、興味深い事実が出てくるのである。
平田篤胤の『仙境異聞』には、石井篤任こと高山寅吉という少年が七歳から十四歳までの七年間『天狗界』で体験した内容を詳細に記録しており、当時は門外不出とされたものでもある。
この寅吉は、文化9年(1812)、上野五条天神社の門前で奇妙な薬売りの翁を目撃、翁が自ら壷の中に入り姿を消してしまう様に仰天、この翁に誘われ、共に壷の中に入り、一瞬にして南台丈まで飛行し『天狗界』で修行を始めたというのだ。
この『天狗界』での寅吉の師匠は杉山僧正(すきやまそうしょう、天狗界は基本濁点を使用しない)であり、岩間山の十三天狗と共に修行を続けた。寅吉の証言によると、天狗も鉄砲を持っているとか、羽団扇は孔雀の冠毛を飛ばす武器であるとか、『天狗界』での食事は小さい丸薬であるとか、鉄で出来た獣がいたとか、不思議な話が多い。
だが、この天狗や寅吉の証言にエイリアンを当てはめると納得がいくのだ。まず”空飛ぶ壷”がどうも怪しいではないか。老人は小さな壷に自らの体小さくして入れてしまっている。しかも、この壷は瞬時に上野から南台丈まで飛行しているのだ。まさに、UFOそのものではないか。
さらに、天狗界には火薬を使わない風砲があると寅吉は証言しているが、これは空気銃ではないだろうか。また丸薬のような食べ物があると寅吉は証言しており、サプリメント・固形食を連想させる。鉄で出来た獣は、アイボなど動物型ロボットではないだろうか。
現代の我々がエイリアンによる拉致を都市伝説の如く語っているが、それがそのまま天狗の拉致ケースに当てはまるのだ。
その後、寅吉の記録は少なくなるが、近代において潮江天満宮神官である宮地水位(堅磐)が明治元年 – 13年にかけて幽境の七十八区界を探訪。その内容を『異境備忘録』に記しているが、死後『天狗界』に帰還した寅吉の現状が証言されているのだ。
凡庸な大人となり、死後帰天した寅吉は、伯耆僧正について修行を再開、寄符から奇乙に階級があがり、その術は”絶気の処”つまり、大気圏外まで飛べる能力を身につけていたという。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集)