【妖怪草子】怨霊巡礼歌 通り魔と四面塔

 池袋に四面塔という史跡がある。

 奇妙な名前の史跡だが、約二百八十年前の享保年間の事である。

 高田雑司ヶ谷から板橋への街道と、礫川から東長崎への街道の交わる四ツ辻付近(現在の西武線池袋駅東口)で、夕方になると通り魔や辻斬りが横行し、人々が恐れ、夜間の人通りが途絶えてしまった。人々の往来によって生活を営んできた地元住民は危機感を抱き、殺人行為を鎮める為に四面塔を建立した。兎に角、多くの人が犠牲になったらしく、多い日は1日に17人もの人間が犠牲になったとされる。




 四面塔はカンボジアのアンコール・トムのバイヨン寺院にも見られ、観音菩薩の顔をかたどった仏教建造物とされている。池袋の四面塔も、観音菩薩の力で通り魔・辻斬りの被害を防ごうという意図があるのであろうか。

そもそも通り魔という言葉は、妖怪の名称である。江戸の随筆「世事百談」「思出草紙」などには「通り悪魔」として記録されている。ある時は甲冑を着た武者であったり、時には襦袢を着た怪しい男であるという。この妖怪を見た時は心を冷静に保って、目を閉じれば問題ないが、憑依されてしまうと刃物を振りかざし、殺傷沙汰に及んでしまう。人間の心の闇には、このような魔物が潜んでいるのであろうか。




 1999年、池袋東急ハンズ付近の路上で、通り魔事件が発生した。10名の男女が包丁とハンマーを持った男に次々と襲われ、2名が死亡、6名の重軽傷という被害が発生した。四面塔の願いもむなしく、世紀末に再び惨劇は起きてしまった。被害者の冥福を心から願いたい。

 弱き心による無意味な犯罪は、二度と繰り返してはいけないのだ。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©PIXABAY

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