トレーニングはオーディションに同時に受かった子と一緒だった。今まで夢を目指す仲間がいなかったYさんにとって、そのトレーニングの日々は辛くもあったが、今まで感じたことのなかったやりがいと楽しさに溢れたものだった。
そうして、幾日もトレーニングをこなしたある日、Yさんは舞台の上に立てる日が来た。プロダクションに所属する中堅ミュージシャンの前座として、ライブハウスで歌うことになったのだ。
そうたいして大きくもないライブハウス、目当てのミュージシャンを見に来ているファンたちは早くお目当てのファンが出てこないかと気もそぞろで、たいしてYさんの歌を聴いている風でもなかった。それでも、Yさんは一生懸命に歌った。
Yさんが歌い終えるころには、興味を示してくれる観客もいて、それなりの拍手を浴びて舞台を降りることが出来た。あこがれのAが見ている世界の一端をみることが出来た気がしたYさんは、気持ちの良い充実感につつまれていた。
オーディションに落ち続けていた日々を考えると、まるで夢のような日々を過ごしていたYさんだが、気がかりなことがあった。もうそろそろ祈祷で定められた期限を迎えてしまうのだ。
確かに、夢の一端を実現することは出来た。だが、Yさんはもっと上の世界を見てみたいと思うようになっていた。そしてそれを実現できるだけの自信もあった。
それでも、やはり妹の言葉は気になる。どうしたら良いのかわからなくなり、Yさんはトレーニングを一緒に受けてきた子に思い切って相談してみた。
すると、あっさりとした答えが返ってきた。
「えーそんなの簡単じゃん。期限を延長してもらるように、もう1回その祈祷っていうやつをやればいいじゃん」
Yさんはその言葉を聞き、思わず吹き出してしまった。だけど、この子が言うことも一理あるかもしれないと思い、すぐに妹に相談してみた。
(※続く)
(監修:山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
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