与兵衛沼(よへいぬま)は、江戸時代に仙台藩士であった鈴木与兵衛という人物が私財を投じ灌漑用水用として造られた、現在の宮城県仙台市宮城野区にある沼である。
近隣に大堤公園があり、日中は野鳥観察や釣りなどを行なう人々で賑わう憩いのスポットとして知られている。だが、一方で県内を代表する心霊スポットの一つにも数えられており、多くの幽霊の目撃や事件の噂が囁かれている。
沼という地点であるからだろうか、与兵衛沼は「沼で泳いでいた母子が溺死した」「男性が入水自殺をした」といった何らかの形で沼に入り命を落としたという話が非常に多い。実際、与兵衛沼はすり鉢状に形成されており、這い出ることが困難であると言われている。
与兵衛沼での噂としては、いくつか有名なものがある。
まず一つ目は、白装束を着た集団を目撃したというものだ。昔ある女性が沼の周辺で山菜取りをして歩いていたところ、大勢の白装束を着た集団がおり、慌てて逃げたのだという。
二つ目は、白い和服を着た女性の幽霊だ。昭和初期ごろのこと、沼の散歩道を歩いていた男性が、向かいから白い和服姿の女性が歩いて来るのを見かけ、男性が挨拶をすると女性もお辞儀を返したのだが、すれ違った後に男性が振り返るとそこに女性はいなかったという。
そして三つ目は、沼の岩にまつわるものだ。この沼には「ライオン島」あるいは「ライオン岩」と呼ばれる突き出た岩が沼の南側にあり、ある時少年が岩の付近を通りかかった際、岩の家に見知らぬ男が立っていた。少年が男性に声を掛けようとした直後、男性は振り返り手を振りながら沼へ落ちていった。少年はすぐさま警察に通報をしたが、水を抜いて確認もしてみたものの死体は出てこなかったという。
また、与兵衛沼の近辺でも実際に地元を騒がせた事件がいくつかある。昭和40年ごろ、沼の脇にある洞窟で野宿をしていた老人が殺害されるという事件が発生し、このころ開校したばかりの仙台三高の10年史にもこの事件が事細かに記載されるほどの衝撃を与えたそうだ。また、与兵衛沼ではないが、近辺の別の沼でも高校生の水死、裏山で建設作業員が首吊りなど、何かと陰鬱な事件が散見される。
なお、いわくの一つにある「泳いでいた母子が溺死」という件については、昭和初期のころ、近隣の小学校では水泳の授業の時、実際に与兵衛沼を使用していたらしいことから、脈絡のない話という訳ではないそうだ。
余談だが、与兵衛沼には心霊とは別で「ガーコの墓」という逸話が残されている。
ある時、かつて老夫婦に育てられていたために泳ぐことも自力でエサを取ることもできなかったアヒルが、いつの間にか沼に住みつき、住民たちからとても可愛がられていた。のちに実はオスだということがわかり、住民たちによるパートナー探しの甲斐もあって10羽ほどの仲間を造ることができた。
だがある時、タヌキから仲間を守るためにガーコは戦い、負傷してそのまま死んでしまった。住民たちはガーコの墓を沼の傍に建てて手厚く葬り、今でも大切に管理されているのだとか。不気味ないわくばかりが付き物の心霊スポットとしては珍しく、それをまるで感じさせない心温まる話ではないだろうか。
【参考記事・文献】
与兵衛沼
https://haunted-place.info/2410.html
与兵衛沼 – 宮城県の心霊スポット
https://ghostmap.jp/spotdetail.php?spotcd=431
薄気味悪い怪現象のウワサに満ちた沼⁉宮城県の心霊スポット『与兵衛沼』
https://kaii-shiryoukan.com/2023/12/16/post-2545/
宮城県の与兵衛沼の昼間と夜のギャップがすごい?心霊スポットになった理由とは
https://pouchs.jp/dUgMU?page=2
【文 ナオキ・コムロ】
画像 T.suzuki / photoAC