飛鳥時代の皇族・政治家である聖徳太子には、数多くの伝説や逸話が残されている。空飛ぶ馬に乗ったという「甲斐の黒駒」伝説や、予言と言われている「未来記」、その他非実在論や法隆寺での怨霊封じ説など、そのジャンルは極めて広い。そんな聖徳太子にまつわるオーパーツとして有名なのは、なんといっても「聖徳太子の地球儀」だろう。
兵庫県揖保郡にある斑鳩(いかるが)寺は、606年、推古天皇から賜った土地に聖徳太子が創建した寺院である。現在は天台宗の寺院であるが、地元では「お太子さん」と呼ばれ厚く信仰されている。
同寺には、聖徳太子ゆかりの宝物がおさめられているのだが、江戸時代に作成された寺宝リスト「常什物帳」(じょうじゅうもつちょう)の中に「地中石」という名の物品が記されている。この「地中石」とされているのが、いわゆる「聖徳太子の地球儀」と呼ばれる。
この地球儀は、直径およそ15cmほどで形はやや歪んだ球体をしており、硬く重量感がある。その表面は、複雑な凹凸の浮彫が施されており、その形状がまるで大陸や島として海を表しているように見えるのである。奇妙なのは、不思議な大陸と思しき浮彫が2ヶ所存在している点だ。
一つは、南極あたりの部分に「墨瓦臘泥加(メガラニカ)」と書かれた大陸で、これは古代ギリシア人が南半球にあると考えていた想像上の大陸だ。もう一つは、太平洋の中心辺りにある謎の大陸で、その位置から「ムー大陸」ではないかと言われている。
メガラニカという名が日本に伝わるようになったのは16世紀ごろであると言われており、1602年にイタリアの宣教師マテオ・リッチが作成し刊行した『坤輿万国全図』(こんよばんこくぜんず)にもその大陸名が記されている。
また、約12000年前に沈没したと言われるムー大陸の名前とその存在が世界を轟かせたのは、さらに時代が下って20世紀、ジェームズ・チャーチワードが『失われたムー大陸』を発表した1931年のことである。
いずれも聖徳太子の時代には知る由もない大陸であり、彼が予知や予言を通じて製作したのではないかと推測する声もあった。
だが、地球儀の科学的分析の結果、この地球儀は海藻糊の漆喰でできていることが判明している。海藻を漆喰の糊として用いる方法は、江戸時代に開発されたものであるため、この地球儀は江戸時代に作成されたものである可能性が高いという。
さらに、この地球儀に彫られている地形が、『和漢三才図絵』に掲載されている世界地図「山海輿地全図」(さんかいよちぜんず)に酷似していることから、『和漢三才図絵』の編纂者である寺島良安が地球儀を製作したのではないかという説が有力となっているのである。
ただし、「山海輿地全図」にはムー大陸らしき大陸は描かれていない。これについては、表面の凹凸のバランスを見映え良くするためにデフォルメさせた島や地形であり、たまたまムー大陸であるかのように配置されてしまったのではないかとも考えられている。
そして、地球儀は、戦国時代にイエズス会が持ち込んだと言われており、日本で最初に地球儀を手にしたのは織田信長であるとも言われている。このようなことから、聖徳太子がこの地球儀を作り得た可能性は、時代はおろか素材やその環境からもあり得ないというのが今のところの結論となっている。
ただし、地球儀如何は別として聖徳太子が生きていた時代に、彼が「地球が球体であった」ということを知り得た可能性はあると考えられている。地球球体説は、紀元前より古代ギリシアなどで既に普及し始めており、1世紀ごろにはそれを含めて西洋文化が漢王朝に伝わっていたと考えられている。
そして、外交を通じていた聖徳太子がそのことを知り得たという可能性は必ずしもないとは言いきれない。
【参考記事・文献】
並木伸一郎『神々の遺産オーパーツ大全』
「聖徳太子の地球儀」はオーパーツ?その謎にせまる
https://rekisuta.com/ancientry/shotoku-prince/globe-ooparts/
【日本のオーパーツ】謎多き聖徳太子の地球儀|その存在自体が矛盾だらけ
https://tomobanashi.jp/ooparts-globe/
聖徳太子の地球儀
https://www.never-world.com/ooparts/shotoku_globe.html
(ZENMAI 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像 狩野養信(1796年8月18日 – 1846年6月12日) – The Horyuji Treasures. Art Exhibition Japan – https://artexhibition.jp/topics/features/20210531-AEJ429307/ , more info at Japan Cultural Expo – https://japanculturalexpo.bunka.go.jp/en/programs/473/, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=124344504による