これは特撮番組の有名な都市伝説である。
1972年に放送された特撮テレビ番組に『超人バロム・1(ワン)』というのがある。本作は『仮面ライダー』や『帰ってきたウルトラマン』などの「変身ブーム」の煽りを受けて制作されたヒーロー番組で、ふたりの少年が合体変身するのが特色である。
放送当時『バロム・1』は『仮面ライダー』ほどの人気は出なかったものの、一定の人気を誇っていて当時の子供の間ではその独特の変身ポーズをマネするなど大きな話題になっていた。
この『超人バロム・1』の放送開始から4ヶ月が過ぎた同年8月後半のことである。当時の新聞に「魔神ドルゲは僕じゃない」という見出しで「『バロム・1』に登場する悪役・魔神ドルゲの名称を変更して欲しい」という訴えを起こした親子の奇異な記事が掲載された。
当時の新聞によると、兵庫県在住、大学教授の息子ドルゲくんが、学校で「魔神ドルゲは悪い奴だからやっつけろ!」と言いがかりをつけられ、イジメられ「もう学校に行きたくない」と訴えていたという。
この報道に対し、放送局の読売テレビの制作部長は「ドルゲくん親子には直接陳謝した。しかし偶然の一致で名前を変えろと言われても困る」と返答していた。
ところが、この報道から1ヶ月後の1972年9月26日、新聞により再び「ドルゲ事件」の続報が伝えられた。
当時の紙面によると、読売テレビは、1.劇中で「ドルゲ」「魔神ドルゲ」という名称は使わない。2.『このドラマにでてくるドルゲはかくうのもので、じつざいのひとはかんけいありません。』というテロップを番組の最後に流すと約束した。
そのため、現在視聴できる『超人バロム・1』には劇中に上記のテロップが見てとれるが、これまでにこの『ドルゲくん事件』に関する様々な都市伝説が流れていた。
有名なものでは、この訴えを起こした「小学生のドルゲくん」は誰かのイタズラで、実在の人物ではなかったというものだ。これは2010年代に拡散した。しかし、当時の新聞記事にはドルゲくんの詳細なプロフィールや顔写真までもが掲載されていたため、「誰かのイタズラだった」というのは完全に作り話である(これは某芸人がテレビ番組で誤った話を広めたという説がある)。
また、『超人バロム・1』はこの「ドルゲくん事件」がきっかけで打ち切られたという噂もあるが、これも事実無根である。当時の新聞によると、『超人バロム・1』にはドルゲくんの問題が表面化する前後から、既に打ち切り案があったようで、直接の原因ではないという。
(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)