『当時のヴェルサイユ宮殿に迷い込んだ…有名なタイムトラベル事件(その1)』より続く
シャーロットが男に小トリアノン宮殿までの行き方を訪ねると、道を教えてくれた。
教えられた通り進んで行くと小屋があり、そこには親子と思われる女性と少女がいたのだが、彼女たちの着ている服も相当に古風なものであった。さらに進むと今度は音楽堂のような建物がある場所に出たのだが、その瞬間さらに奇妙な感覚に襲われたのだという。
それまで凪いでいた風が急に止み、木々がざわめく音もしなくなった。さらには、周囲の景色が立体感を失い、まるで絵でも見ているような感覚に陥った。建物の近くには小屋があり、そこに1人の男がいたが、男の顔は不自然に黒く、あばたにまみれていた。
2人が男の方を見ていると、横にはいつの間にか別の男がいて、2人は思わず驚いた。男は貴族そのものの服装をしていて、その場をあとにしようとした2人に「そっちに進んではいけない。こちらです」と声をかけた。
男が指し示した方向に進んで行くと橋があり、その橋を渡るとようやく小トリアノン宮殿が見えた。宮殿の側にとても華やかなドレスを着飾った女性がいて、彼女は絵を描いていた。
女性は頭に白い帽子を被り、夏用の白いドレスを着ていたが、相当高貴な地位にいる人物のように思えた。その女性は2人の事に気がつくと、筆を動かすのをやめ、無言で2人のことをじっと見つめたのだという。そこが、当時の景観を残すヴェルサイユ宮殿だとしても、明らかにおかしかった。
相変わらず周囲の景色は平坦で、風や葉擦れの音も聞こえず、奇妙な世界に迷い込んでしまったかのような感覚に襲われていた。
その日、ヴェルサイユ宮殿で何か特別な催しものがあるという話も聞いていなかった。2人は明らかに自分たちがおかしな状況に置かれていることに気づいていたが、お互いそれを口に出せないでいた。
そのことを確認するのが怖かったのだ。2人は早々に見学を切り上げヴェルサイユ宮殿を出るために出口へと向かった。相変わらず、奇妙な感覚と気持ちの悪さに襲われていたが、早く出たい一心で休むことなく歩き続けた。
ようやく出口に辿り着き、敷地の外に一歩足を踏み出すと、それまでずっと続いていた奇妙な感覚が急に消失した。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©PIXABAY