アメリカのブタの体内で人間の臓器をつくり出すキメラ技術が話題になっている。臓器提供者が圧倒的に不足している現在に於いて、この技術は今後、医学の発展に多大な影響を及ぼすかと期待される。
しかし、倫理的な問題があり、そして「キメラ技術が発展するといずれは軍事兵器に利用されるのではないか?」という指摘もある。
「キメラ兵器」というとSFの空想世界の存在かと思われるだろう。
しかし、実際にキメラ兵器によって最強の軍隊を養成しようと計画していた独裁者がいた。20世紀最悪の「悪魔」と言われるヨシフ・スターリンだ。
昨今流出されたソ連邦の機密文書によって、スターリンが半人半猿の兵士の養成を計画していたことが判明した。
研究に携わったのはイリヤ・イワノフ博士らで、博士は幾度にもチンパンジーと人間との人工受精実験を行っていた。イワノフ博士は1901年にロマノフ2世の後押しを受け、世界初の人工受精競走馬研究所を設立した人物だ。
モスクワの新聞によれば、当時、スターリンはイワノフ博士に対して、次のように語ったという。
「私が求めているのは、新らしい無敵の人間である。痛みに対して不屈であり、食事をさして必要とせず、その質に不平を言わない者だ」
社会主義革命を経て誕生した当時のソ連は、内戦の混乱を一刻も早くに終結するべく、総合経済政策「五ヵ年計画」に耐えるべく新たな赤軍を増員・強化する必要があった。
1926年、モスクワ共産党政治局は科学院に対し、20万ドルの資金を提供しキメラ兵器の研究を依頼したのである。
現代の感覚から考えられば、明らかな人種差別であるが、当時のソ連には、「アフリカ人は人間よりも猿に近い」という迷信があった為、イワノフ博士は西アフリカに行き、チンパンジーのメスに黒人男性の精子を受精させる人工受精実験を幾度も行った。
一方、スターリンの誕生地であるグルジアにも猿を育成する研究所が設立された。
しかし、人工受精で妊娠させることは出来ても、健康な胎児を出産して無事に成長した例は無かった。
そして、イワノフ博士の研究はソ連の新聞の批難を浴び、クー・クラックス・クラン(KKK)からイワノフ博士に資金提供をしていたキューバ人の資産家ロサリア・アブレウ氏に「研究は神への冒涜であると見なし、報復を行う」という脅迫状が送られた。
こうした経緯もあって、アブレウ氏は結局、資金提供を断念したのだ。
そして、ソ連邦は大粛正時代へと向かい、研究の失敗に重ねたイワノフ博士も1931年、カザフスタンへと追放されることなり、翌年の年3月、失意の内に没したという。
当時は失敗に終わったキメラ兵器製造計画・・・しかし、現在の化学は当時に比べて大幅に進歩している。
先日、マウスの体内に人間の「耳介軟骨」の作成に成功したニュースが世界中で話題になった。また、「MITテクノロジーレビュー」によると、過去12カ月間で出産には至らなかったものの「ヒト-ブタ」「ヒト-羊」のキメラの妊娠が20件確認されているという。
そして、カリフォルニア州にあるソーク研究所のジャン・カルロス・ベルモンテ博士が、これまでに12件以上の「ヒト-ブタ」キメラの妊娠に成功したと発表している。
これらの研究は医学の発展のみならず、兵器として使用されてしまう可能性も多いにあるだろう。
IPS細胞研究が発展する中、キメラ兵器が実現してしまうのは、そう遠くない未来かもしれない・・・。
(深月ユリア ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
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