これは江戸川区に住むDさんから聞いた話である。
Dさんは長く続く農家の家系であった。Dさん自身も農家に従事しておりたくさんの野菜をつくっている。そんなDさんの家には不可解な不文律があった。
『餅を食べてはいけない』Dさんは子どものころからこの ルールが不思議で仕方なかった。
「いったい何でうちの家だけ餅を食べちゃいけないんだ。餅を食べて誰かが死んじゃったのか?」
Dさんの頭には常に疑問があった。だがその不文律に関する話を祖母が聞かせてくれたのだ。
事件は100年ほど昔にさかのぼる。明治の初期ごろの話だ。親戚一同が集まってDさんの家ではもちをついていた。
「ああ、今年もこの餅が食べれるなあ」「楽しみだよね」
主婦達はそんな話をしていたという。
Dさんの家は大きな農家であり、家には特有の大きな太い梁があるのだが、ふと梁を見上げるとその上を飼い猫が歩いてくる所だった。
「あれ、猫が梁の上を歩いているよ」「おもちの匂いにつられたのかな」
だが、家族達が見ている前で、飼い猫は梁から足を滑らせ、もちをついている臼の中に落下してしまった。あまりに急だったため、杵を止めることはできず、餅まみれになっている猫の上に、重い杵が振り落とされた。
猫の悲鳴が上がった。餅と一緒につき殺され、猫の血と内臓まみれになった餅は食べられることなく、その年は餅どころではなくなってしまった。
次の年。
「去年はあんなことがあったね」
そう言いながらまた家族達が餅をついていると、不可解なことが起こった。何度餅をついても、餅の中に猫の毛が入る。去年の毛が入るわけがないし、臼も杵も何度も洗っている。しかし、何度餅をついても猫の毛が餅に入ってしまう。まるで、猫の恨みがわき出てくるかのように・・・。
そのため、Dさんの家では餅をつかないようになったのだという。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)