【実話怪談】わんこ

 Wさんにとって犬は兄弟同然であった。いつも泣き虫だったWさんにとって、学校でのいじめや悩みなどなんでも相談できる
唯一の存在が家で飼っていた愛犬シロであったのだ。

 「あの子ったら、いつまでたっても人間の友人ができないのよ」「困ったもんだ、友達はうちのシロだけだもんな」
 寝たふりをしながら、Wさんは両親の会話に聞き耳をたてていた。どうやら、二人とも内向的な自分を心配しているようだ。
 (お父さん、お母さんを心配させちゃいけない)そう思えば、思う程、彼は学校で孤立していくのであった。
 学校で、いじめられる理由は簡単だった。彼は勉強も苦手なうえ、運動も下手であった、つまり、クラスのお荷物だったのだ。
勿論、喧嘩も弱い。だから、休み時間になると、いろいろとちょっかいを出される。退屈しのぎに、いやがらせをされるのだ。 

 「おい、くやしかったら、反撃してみろよ」「おい、なんか反論してみろよ」
 周りを取り囲まれ、こづかれ、いじめられ、彼は毎日 くやしくて…たまらなく、くやしくて…。ベットで泣いた。
 そして、いつしか泣き疲れて眠るのだ。




 そんないじめられて帰宅したある日の夕方。愛犬のシロが、駆け寄ってきた。母親が鎖をつなぎ忘れたらしい。ペロペロと顔をなめて、悲しみを癒してくれるシロ。 
(ありがとう、シロ、わかったよ。頑張るから、くすぐったいよ)
 シロを話したその時、突然Wさんに大型犬が飛びかかって来た。

 「うわー、なんなんだよ、こいつ」
 近所でも評判の悪い噛みグセのある犬であった。彼が必死に犬から逃れようとしたとき、猛然とシロが大型犬に飛びかかった。中型犬のシロの3倍はあるかもしれない。
 その大型犬にむかって、シロは全体重をかけて体当たりした。もんどり打って横向きに転がる大型犬、すぐさまシロが喉元を狙うがあったというまにかえされてしまった。
 脇腹をかまれ、ぶんぶんとふりまわされるシロ。それでも、シロは大型犬の牙から逃れると再び相手の足に噛みついた。

 「もういいよ、シロ、これ以上やると、君が死んじゃうよ、誰かーとめて」
 大声でわめくと、近所の人がやってきて二匹を引き離した。
 「クウーン」
 シロは満足そうに血まみれで、Wさんをみつめた。それは、男なら逃げるなというシロからのメッセージのようであった。 

 (わかったよ、シロ 君のいいたいことはわかった)
 シロの怪我は思った以上に重傷で、近所の動物病院に入院することになった。心配で仕方なかったものの、Wさんは学校に行った。授業中も、休み時間も、彼はシロの無事を祈り続けた。

 「おい、何あせって帰ってんだよ」「おい、待てよ」
 いつものいじめっこが、急いで帰るWさんの行方を阻んだ。黙ってにらみ返すWさん。
 「おーっ いっちょまえに、睨んでんじゃねえか。何様だ。おまえ」「おうおう、いいからやっちまおうぜ」
 3,4人が周りを取り囲んだ。どの顔もいじ悪く、にやにやしている。まるで、今から獲物をいたぶるハイエナのような顔だ。 

 「もう、僕は逃げない、逃げないと約束したんだ」
 「おまえ、何言ってるんだ」
 Wさんは夢中になって奴らに突進した。もうめちゃくちゃな喧嘩だった。そこにあるゴミ箱を投げたり、相手をドブ川に突き落としたり。
 あまりの暴れように、いじめっこたちは忽ち逃げ出した。
 ボロボロになったWさんは、気を失いそうになった。

 そこにシロの声が聞こえてきたのだ。
 「クウーン」
 あっつシロだ、いかなきゃ、シロの病院にいかなきゃ。Wさんは血だらけにすりむいた腕と足をひきずりながら、病院に向かった。




 病院にたどり着いた彼が見たものは、シロの遺体であった。彼を守るために、闘って死んだシロが死んだ。

 「シロ、シロ、お願いだよ、起きてよ、シロ、聞こえてるんだろう」
 Wさんの声が病院中にこだました。
 その夜、Wさんは声もなく、涙も涸らし…泣いた。

 彼がシロの鳴き声を聞いたときは、ちょうど病院でシロが息を引き取った時であった。

 それ以来、彼は犬をかっていない。
 「なぜかって言うと、いつもシロがそばにいてくれるような気がするからです。シロは、僕に、誰にも負けない勇気をくれたからね」

 Wさんは今、企業を興し成功している。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)

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