夜間、人の後をついてくるという妖怪は多い。
漫画のキャラクター「ゴルゴ13」ではないが、人間の心理上、背後にぴったりつけられる恐怖は耐え難い。その為、人々は深夜の道に”背後の妖怪”を感じたのであろう。
勿論、妖怪王国・西多摩にも”ついてくる妖怪たち”は存在する。檜原村に「パタパタ」という妖怪が伝えられているが、この魔物は夜道にパタパタとスリッパの音をたてて、人を脅かすといういたづらをやる。なかなか小憎らしい。
また秋川市には、「スタスタ」という奴が伝承されている。こちらはスタスタと歩くらしい。
檜原より秋川の妖怪が若干急いで歩いているような気がする。やはり、かつてそこに住んだ人の生活テンポが妖怪の足音にも反映されている。できるなら、ゆっくり「ぺたり、ぺたり」と歩きたいものだ。
他にも西多摩全体では「送り狼」が語られている。
「送り狼」というと現代人の我々はよからぬ想像をしてしまうが、この妖怪「送り狼」は人間の後をつけてくれ、無事に送ってくれるありがたい存在なのだ。
そして、送ってくれたお礼に赤飯を与えると、「送り狼」は喜んで食べるとされている。神の使いであった片鱗が食の嗜好に垣間見える。但し、途中で転ぶと、人間が食べられてしまうらしい。そんな時は「さて、ここらで一休みでもしようかな」と言うと狼は襲ってこないという。
かなり、素直な妖怪ではないか。
他にも、「送り狼」は背後から声をかけるのだが、この時は振り返ってはいけないとされている。夜道に妖怪がいた時代、人は背中に魔物を感じた。
今は背後に、犯罪の恐怖を感じてしまう。哀しいかな。
(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)
※画像©写真素材足成