都市伝説

浦島太郎伝説に潜む海の向こうの異界【後編】

【前編】

 元来この(海の向こうに楽園がある)という思想は、アジア全体に分布している。中国では、東海の島に仙人の住む蓬莱山があり、そこには不老不死の仙薬があるという考えがあった。

 この蓬莱山というのは、多分日本の富士山と推測される(不死山=不二山という構図)のだが、秦の始皇帝は、真剣にこの伝承に取組み、徐福以下数千名を大船団で日本に派遣したと言われている。なおこの徐福の到来伝説は各地にあり、富士吉田なのが有名な地域である。




 また、パプアニューギニアのニューブリテン島、インドネシアのケイ諸島にも同様に(海の向こうの楽園)という考えはあったようである。またハワイの古語には「リューク」という奇妙な言葉がある。「リュー」とは「長期滞在」であり、「クー」は「島」の事である。だとすると「浦島伝説」はハワイから日本列島に渡来した人々が持ち込んだ昔話なのか。或いは日本人がハワイまで漂流した遠い昔の記憶なのだろうか。むむっするとタイやヒラメの舞い踊りは「ハワイアン」「フラダンス」なのか。

 他にもポナペ島にも竜宮じみた伝説がある。「カニムイソ」という「神の町」という話であり、海中にその街はあるというのだ。これも太平洋に広がる「浦島伝説」のひとつなのだろう。(この説はフジテレビ「アンビリーバボー」が最初であるという認識する人がいるが、実は日本テレビ「謎学の旅」がTV番組としては初出である)

 やはり、アジアの特に海に面した地域の人間には、「海を越えて新天地に行こう」という遺伝子に刻み込まれた思いがあるのかもしれない。逆にそういう人々だからこそ海を渡って各地に住み着いたのである。

 ちょっと視点をかえて、心理学的に考察してみると、胎児の頃の記憶なのかもしれない。気がついたら母親のお腹の中にいた上、ぷかぷかと羊水につかっていた胎児の時代、人はあの一番安楽で一番幸せだった羊水時代の、胎児の記憶から、水の向こうの桃源郷を創造したのだろう。

 一度、この世に生まれてしまえば苦労の連続であるから、本能的にあの頃(海の向こう)に戻りたいと思っているのであろう。だとそうすると、ユングではないが、亀というのは妊娠・性交の象徴としては納得するものがある。





 しかし、ひとつだけ気になる事がある。それは何故、乙姫が「たまて箱」を渡したのかという事である。一体これはどういう意味なんだろうか。私が思うにこれは「いつまでも、夢ばかりみていると老人になってしまうよ。おまえにとっての桃源郷は家族がいたこの浜辺だろう」という自戒を促す為に、「たまて箱」を持たしたのではないかと思われるのだ。だとすれば、かなりシニカルなエンディングではないだろうか。

 あなたも今、身の回りにある幸せの良さに気づかないで、遠くの幻のような幸せを夢みてないだろうか。幸せの竜宮はいまそこにあるのだ。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)