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世界最短の国境!モロッコにあるスペインの飛び地「ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラ」

カナダとアメリカの国境線は、全長8891mに及んでおり、国境としては世界最長であると言われている。では、世界最短の国境はどれほどであるのかというと、なんとわずか80mほどしかないという。この最短の国境線がどこに存在しているかというと、スペインとモロッコの間だ。

北アフリカには、スペインの領土が飛び地としていくつか存在している。これらの地域は、歴史的には「プラサス・デ・ソベラニア(主権の及ぶ土地)」と称されていたが、現在ではこの名称は廃れている。

1415年、ポルトガル王国アヴィス朝の王であったのジョアン1世が、レコンキスタ(キリスト教国家によるイベリア半島の再征服活動)の延長としてモロッコに進出し勢力を拡大、この時に沿岸部のいくつかの地域がポルトガル領となったのである。その後、1580年にスペインがポルトガルを併合したことで、これらの飛び地もスペイン領となった。

だが、第二次大戦後にモロッコが独立を果たす際、これらの飛び地はスペインから返還されず、現在に至るまでスペイン領として扱われている。現在も、これらの地域はモロッコから領有権返還が求められている状態となっているという。

飛び地は、セウタ、メリリャの自治都市、チャファリナス諸島、ペニョン・デ・アルセマス、ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラという大小5つに区分されている。冒頭で触れた世界最短の国境を有しているのは、「ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラ」である。

ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラは、スペイン語で「ペニョン」が「岩」の意味である通り、岩の要塞となっている地域である。20世紀前半までは島であったが、嵐によって膨大な砂が海に流れ込み、大陸とつながって半島の状態になっている。かつて島であった頃は、海賊たちがこもった地点になっていたようだが、スペイン艦隊によって全滅させられたことでスペイン領となった。




北西から南東にかけて全長400m、面積19000平方m、最高地点の標高87mであるこの地は、スペイン軍兵士のみが駐留し定住している。岩礁であるために飲料水と樹木が不足していたが、現在では淡水化プラントが常設され、飲料水を自給自足しているという。

それぞれの飛び地は、アフリカでありながらヨーロッパ文化が発展する特殊な地点として栄えている都市もあり、メリリャで生活しているモロッコ系の人々は全くモロッコへ帰ることを望んでいないという。一方で、セウタのようにアフリカ難民がヨーロッパへ亡命するための中継地点にもなっているといったケースがある。

前述の通り、モロッコからの領有権の返還が求められている地域の一つということもあり、それに伴った事件も過去に発生している。2012年8月には、モロッコの活動家数人がペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラを占拠し、4名が逮捕されるという事件が発生している。

そもそも、飛び地の中には単に岩の無人島であるものも存在し、ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラも「戦略的価値は無く、基地の放棄か撤退すべき」という提案が、スペイン国会でなされている。

それでも、スペインがこれらの飛び地を手放さないのは、いずれかの飛び地を返還するということは、同時に自治都市で栄えているセウタやメリリャも返還することを意味する。スペインがいまだにこの地を統治しているのは、価値よりも意地であるのだろう。

【参考記事・文献】
なぜスペインは今もアフリカに都市を持つのか?アフリカにあるスペインの飛び地
https://x.gd/uUhtz
ペニョン・デ・ベレス・デ・ラ・ゴメラ(地理)
https://x.gd/95iwr
【解説】プラサス・デ・ソベラニア -アフリカにある7つのスペイン領-
https://x.gd/KiIml

(ナオキ・コムロ 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 ウィキペディアより引用