日本の国民的演歌歌手であった三波春夫。東京オリンピック前年の1963年に発表した『東京五輪音頭』、1970年の日本万国博覧会(大阪万博)でのテーマ曲『世界の国からこんにちは』などの歌唱でも知られており、また劇場版ルパン三世『ルパンVS複製人間』(1978)にて挿入歌「ルパン音頭」を歌唱したことでも話題となった。
三波春夫といえば、「お客様は神様です」のフレーズが代表的だ。この言葉は、1961年ごろに行なわれた対談で残した発言であると言われており、「お客様に自分が引き出され舞台に生かされる」「お客様は神様のつもりでやらなければ芸ではない」という趣旨によるものであるという。
しかし、現在この言葉が真意とかけ離れて用いられるケースも多く散見されており、客側の主張として「お客様は神様だろう?」と店側への過度な要求を押し通すような言葉として想定する例も見られる。
もともとこの傾向は、漫才トリオ「レッツゴー三匹」がネタで使用したことで広まったとも言われており、「商店・飲食店で代金さえ払えば客は何をしても許される」という解釈が広まるようになったとされている。
もっとも、のちに三波は「お金を払ってステージに足を運んで下さった方への言葉だ」「悪態をつくクレーマーは”様”をつけて呼んでもらえる存在ではない」というような苦言を呈していたという。ただし、このフレーズ自体は当初ですら「商売気たっぷりの成金主義」などと嫌味に言う者がいたそうである。
さて、三波にとって特に象徴的なエピソードと言えば、同じく歌手である村田英雄との不仲説だ。
昭和を代表する演歌歌手の2大巨頭とされていた三波と村田は、共に浪曲の出身という共通点があるものの、性格もほぼ正反対ということで犬猿の仲、不仲であるという噂が浸透していた。
彼らの不仲あるいは互いにライバル視していたというエピソードはいくつもあり、ある時のステージで「三波上手(かみて)、村田下手(しもて)」という舞台登場の指定がなされた際、村田が”上手・下手”を勘違いして「俺が三波より下手(ヘタ)だっていうのか」と激怒したというものもあり、また一方で村田の楽曲「王将」が戦後初のミリオンセラーとなって流行した際、三波の付き人がそれを鼻歌交じりに口ずさんだことで三波の逆鱗にふれクビになったというようなものまで様々だ。
他にも、ある歌番組で初共演をした際には、乾杯シーンで互いにそっぽを向いて関係者を慌てさせ、その後は紅白歌合戦の楽屋でもお互い知らんぷりをしていたという。
だが、そうした不仲関係は事実であったのか・・・のちに村田は、互いに浪曲からの出発ということに始まり、大酒飲みで豪遊も厭わない自身と、のどを守るために酒タバコを一切避けた三波という、まさに風貌も性格も正反対といえるイメージが不仲として世間に了解されていったと解している。また、実際にはそのことは暗黙の了解であり、実際にはそんな関係ではなかったという。
村田が糖尿病により両足を切断した際、三波は心配して電話をかけてきたという。村田にとっては三波の存在は刺激であると同時に励みであり、「全然、犬猿てなもんじゃないよ」と語っていたという。
三波が亡くなった翌年、後を追うように村田も他界した。
【参考記事・文献】
“不仲エピソード”だらけの昭和演歌二大巨頭 「三波春夫」に先立たれた「村田英雄」が思わず漏らした一言
https://news.yahoo.co.jp/articles/2ad89b038b12b0dba6aaa030940e13d1e357c628
三波春夫
https://dic.nicovideo.jp/a/%E4%B8%89%E6%B3%A2%E6%98%A5%E5%A4%AB
【文 黒蠍けいすけ】
画像 左『三波春夫 ゴールデン★ベスト』 右『スター☆デラックス 村田英雄』