「隣人」

山口敏太郎先生、愛夢様、スタッフの皆様、こんにちは。ゲリー板橋でございます。

新型コロナウィルスの影響で来るべき春の進学、就職、企業、機関への移動等にも影響を与えると、新聞報道にもあります。引っ越す事もままならぬ時代になりました。

引っ越す。部屋を移る。ある意味は希望でもありますし、不安でもあります。

今日は引っ越す、事によって新たな部屋で起きた話をしたいと思います。

例によりまして私の話ではなく友人の話であり、今回もまた、怪異談ではなく、奇談になるとは思いますが、ひとつ、御勘弁のほどを宜しくお願いいたします。

1997年頃の事です。

私の友人のマサは、大阪市にも通勤の便のよい、JR尼崎駅から10分程の距離で、幹線道路にも近い、あるマンションに居を移しました。

立地条件にも関わらず、当時としても比較的、安い部屋代でありました。バブル期に建てられた建物で、1ルームでしたが比較的ゆったりとした、壁も厚い部屋でした。事故物件などではなく、彼もとんだ掘り出し物だ、と喜んでおりました。

暫くして、浮かない顔したマサが私にこう打ち明けました。「隣の部屋には若い男が住んでいて、その仲間が出入りして、話し声が一晩中、響いて眠れない」と言うのです。

彼等は20代前半から中半の、いわゆるヤンキーと申しますか、ヤンチャな輩であったそうであります。

申し上げましたように彼の住むマンションの部屋の壁は結構、厚いものでしたが、人の声は響くものですから、マサの部屋にも伝わってきたのだと思われます。

マサは体格のよい、大柄な男なのですが、少々、神経質なところもあり、真っ白な壁に小さな、点のような染みを非常に心の重みにするところがありまして、彼にとっては都市生活においてはよくある事も、耐え難いものであったのであります。




私は「管理会社に言うたらええやん」、マサは「そんな事、言うたら隣のやつともめるやん」と我慢しているようでありました。

それからまた、暫くして、マサから連絡がありました。「ゲリー、あんまりうるさいから、部屋の壁に防音マットをたてたわ。これで、大丈夫やで」とマサは言いました。

ちょっと心配になって私は日曜日に、麦酒とつまみの入ったビニール袋を下げて、彼の部屋を訪れました。部屋に入って私は愕然としました。

部屋の四方の壁には、薄い水色の分厚い防音マットが張り巡らされ、比較的ゆったりとしていた部屋は、薄い水色の壁が迫ってくるような圧迫感を感じる部屋になっていました。

それでもマサは、「もう何も聞こえへんわ」と嬉しそうに笑っていました。

とりとめのない話しをしていましたが、それほど飲んでもいないのに、彼は寝落ちをしてしまいました。私はベランダから隣の部屋の窓を見ましたが、窓からは灯りは見えませんでした。無用心でしたが、起こしてもマサは起きなかったので、そのままにして、私は部屋を後にしました。

一週間程たち、マサから連絡がありました。

「隣、人の出入りなくなったで。あいつ、なんか知らんけど、部屋にこもっとるみたいで、仲間も来うへんわ。他の部屋から苦情が管理会社にいったんやで。管理会社から、警告うけたんやろな」と笑っていました。

二、三日たち、またマサから連絡がありました。

「ゲリー、隣の部屋の前を通ったらな。ドアの両脇に、小皿に盛り塩がしてあるんや。夜の店とか飲食店やったらわかるけど、マンションの部屋にやで、どない思う?」「気持ち悪いわあ」とマサは言いました。

結局、マサはそのマンションの部屋を引き払いました。今度は得体の知れない、気持ち悪さ、といいますか、不安に襲われる事になったからであります。

引き払うまで、隣人の声も聞こえる事もなく、隣人と仲間達の姿を見かける事はなかった、と言う事です。

私はマサにはこの考えは未だに言ってはいませんが、あくまでも私の考えであり、あり得ない事なのかもしれませんが、その隣人と、仲間は存在していなかったのかもしれません。

その部屋には誰も住んではいなかったのかもしれません。そして、その部屋での事故の当事者でもなく、はじめから存在している者ではなかったのかもしれません。

盛り塩が、何の意味をもつのかは、私の知見では判りませんし、なぜ、突然に、盛り塩が部屋のドアの両脇に置かれたのかも私には判りませんが、私は、彼等は存在ない者達だと思うのです。 

今回の話しも怪異談ではありません。マサの妄想なのかもしれませんし、合理的解釈はいくらでもつく、都市生活のよくある奇妙な出来事なのでありましょう。

しかし、私が思うに、もし存在していないものが存在していたら、その存在が、いわゆる幽霊であるならば……

どんな部屋にも幽霊はいる。
どんなホテルにも幽霊はいる。
どんな場所にも幽霊はいる。

幽霊のいない世界を望むのは我々の世界に望むのは難しい。

私は未だに、心に残っているのは、彼等の存在ではなく、四方から迫ってくる薄い水色の壁の部屋で安心しきって笑うマサの顔です。

それこそ、マサには失礼ですが、私にとっての怪談であります。

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(アトラスラジオ・リスナー投稿 ゲリー板橋さん 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 kupukimi / photoAC

 

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