56000頭の豚が2か月にわたり殺処分される!

【豚熱の度に殺処分】

7月23日、栃木県は那須烏山内の大規模養豚場で「豚熱」が発生し、同日夕方から約56000頭もの豚の殺処分を開始したことを発表した。

豚熱とは、豚のウイルス性疾病であり、豚には致死性の高い病気であるが、ヒトには感染することはない。

同養豚場では、豚への「豚熱」用ワクチンは接種済みで、防鳥ネット設置などの飼養衛生管理基準も6月まで満たしていた。しかし、匿名のメールによる県情報提供があり、調査をすると、一日あたりの豚の死亡頭数が通常の1.5倍に増えていた。

家畜伝染病予防法に基づき、豚熱のような特定家畜伝染病は養豚場の豚が一頭でも感染すると全頭殺処分しなければならない法律があり、県内の養豚場での豚熱発生は今年4件目で、国内全体を見れば、全83事例、殺処分数は約353,852頭となる。

今回は殺処分と養豚場への補助金として為に18億円(もちろん税金)が使われる。

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pigs / KSRE Photo

【殺処分の方法は残酷】

特定家畜伝染病防疫指針での殺処分方法は「薬殺、電殺、二酸化炭素によるガス殺等の方法により迅速に行う」と定めされている。

しかしOIE(国際獣疫事務局)の動物福祉(アニマルウェルフェア)規約では、二酸化炭素による殺処分について「意識の即時喪失をもたらすことはなく高濃度のCO2を含むガス混合物の持つ嫌悪を催す性質及び誘発過程で生じる息苦しさはアニマルウェルフェアにとって重要な注意事項である」とアニマルウェルフェアに観点から問題視している。

また、荷台をブルーシートで覆いその隙間から二酸化炭素を注入するなどの方法であるため、動物個々の反応を確認できない。

国内で薬殺に用いられることが多いのがパコマのような逆性石鹸である。パコマは溶血作用、神経筋接合部における筋弛緩作用があり、動物は全身の骨格筋が麻痺していき、最終的に呼吸筋の麻痺により窒息して死に至るが、意識を失うまで長時間苦しむことになる。

その為、米国獣医学会の安楽死に関するガイドライン(AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals:2020 Edition)には次のように、殺処分方法としてパコマのような消毒薬を使用することを禁止している。

「ストリキニーネ、ニコチン、カフェイン、洗浄剤、溶剤、農薬、消毒剤、および治療または安楽死の使用のために特に設計されていない他の毒性物質は、いかなる状況下でも安楽死剤として使用することはできない」

アニマルウェルフェアの観点から、最も適切な方法は麻酔薬の使用である。OIEコード(国際獣疫事務局)麻酔薬の使用の場合、「総ての動物に適応でき、この方法による死は安らかである」と推進している。

農水省が出している「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」にも「可能な限り動物福祉の観点と豚等の所有者、防疫措置従事者等の心情にも十分配慮する」という目的で「鎮静剤又は麻酔剤の使用」が記載されているが、実際の養豚場での麻酔剤の使用による殺処分するケースは少ない。




【なぜ2ヶ月も?】

「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針」には、「早期の発見及び通報」「病原体の早期封じ込め」が重視され、「肥育豚飼養農場で 1000 から2000 頭程度の飼養規模を想定」した場合、24時間以内の殺処分と72時間以内の死体処理が目安とされている。

その為、病原体の早期封じ込めのために、陽性なのかどうかも調べることなくほとんどの疑似患畜も殺処分されてしまう。今回の殺処分には約2ヶ月を要するが、発見が遅れ(隠蔽したかったのか、匿名での報告)て豚熱が感染蔓延したということが理由だ。

また、2022年4月22日殺処分する際の自衛隊派遣に是正勧告があり、今回は自衛隊が派遣されないことも一因かもしれない。

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IMG_2085 / youngthousands

【アニマルウェルフェアの徹底を】

豚熱・鳥インフルエンザが蔓延する原因として、日本の工場型畜産の過密飼育がある。「密」になれば動物たちの間でも、様々な感染症が蔓延するのだ。

日本では殆どの養豚場で豚は「妊娠ストール(母豚を柵の中に隔離して妊娠・出産を繰り返させる)」という狭い飼育スペースで飼育されるが、あまりに狭く母豚は産まれた赤ちゃんを踏みつけてしまう程だ。妊娠ストールはEUやアメリカの一部の州ではアニマルウェルフェアの観点から禁止され、国内でも日本ハムが2030年まで全農場の妊娠ストールを廃止すると発表している。

しかし、日本では未だにの工場型畜産の過密飼育が行われ、畜産動物は日々苦しみ、定期的にこのような感染症が蔓延する。家畜保健衛生所が畜産環境の視察に巡回しても、 法的規制が明確な飼育スペースの数値基準がないため改善指導がしにくい。

家畜伝染病防止の為に視察しても、畜舎の中まで入らず農場側からの自己申告で終わることもあり、今件のような大幅な発見の遅れに繋がる。

畜産動物が苦しまないよう、家畜伝染病が蔓延しないよう、そして、健康的な畜産動物を飼育することが人間の健康にも繋がるよう、日本において畜産動物のアニマルウェルフェアに関する法整備が急務である。

文:深月ユリア(作者紹介:ポーランドの魔女とアイヌのシャーマンの血を受け継ぐ魔女占い師。ジャーナリスト、女優、ベリーダンサー、映画・イベントプロデューサーとしても活動)

著書
あなたも霊視ができる本 」文芸社
世界の予言2.0 陰謀論を超えていけ キリストの再臨は人工知能とともに」明窓出版

画像 Marion Streiff / PIXABAY

 

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