【虚ろな祠】後編

【前編から続く】

翌朝、Yさんの家に電話をすると「いらしてください、もうありますよ。一人暮らしなので、いつでもどうぞ」
とのことだった。隣町ということもあり、しげしさんはすぐに向かうことにした。

「お邪魔します」

敷地に入ると、Yさんは庭にいた。

「あ、しげしさん。ここですわ。どうぞ」

Yさんが庭の一角を指さした先に、かつて祖母の庭にあった祠が置かれていた。

「中、ご覧になりますか?」

Yさんは祠を開けようとしたが、しげしさんは「祠に触れるな」と厳しく𠮟られたことを思い出して首を振った。そして、直感的に、そこに何も祀られていない事が分かったという。

(叔母の仕業か……)

虚ろな印象を受ける祠に対し、しげしさんは首を振った。

「ここには何も祀られてない……」

「はい。千代さん、これ渡した時いうとりました。夢にうなされるんやいうんです。“私は首をもがれるんや”――三代続いた、あの家の祟りや」

「祟り……ですか?」

「知らんかったですか。あの家のばあさまはな……」

Yさんによれば、しげしさんの祖母キヨさんの姑にあたる人物Aは、息子の元に嫁いできたキヨさんのことが気に入らなかったという。Aの夫は村の実力者で、保守的な性格から、新しい者を入れるのを嫌がっていた。

キヨさんはそんな家に嫁いだことをとても後悔していた。そして、娘のことを不憫に思ったキヨさんの母Bは、自らの身に火をつけたという。

“私の身体を捧げるから、娘を守ってほしい”と。

(そんな事をして何になるんだ……?)

しげしさんにはBさんの気持ちが分からなかった。

「それでは守るどころか、悪さをする祟り神にしかならないのでは……?私には焼身自殺した曾祖母の気持ちが分かりません……」

しげしさんはかつて友人が焼身自殺した現場を見たことがある。人を恨みながら焼け死んだ友の遺体の上には赤い魂が浮いて見えたという。

(自ら、あんな悍ましいものになるなんて……)

Yさんは祠を見ながら答える。

「祟り神でもよかったんですやろ、娘さえ護れたら」

「でも、その娘の家が祟られてしまった……?」

しげしさんの言葉にYさんは頷いた。

「キヨさんは旦那さんに愛されてたから、辛い思いばかりやなかったんですわ。でも祟り神に祟られた家ですからね、事情が変わってしまった」

キヨさんは、母が祟り神に成り果てた事を心から嘆いた。Bにとっては娘を守るためとはいえ、キヨさんにとっては嫁ぎ先の家が祟られたのだ。

以来、キヨさん夫婦のもとに生まれるのは娘ばかりで、息子が生まれても結核で失明して家を出たり、幼くして亡くなることが続いた。

唯一残った息子が嫁にもらった千代さんは、畑を勝手に売り払うような女だった。キヨさんは祟り神となった実母を鎮めるため、あるお社のお札を入れて庭に祀ったという。

だが、祀られていたであろう札は今この祠には存在しない。千代さんが売ったか捨てたのだろう。

「だからこれは、その残骸ですわ。お社はキヨさんの力に関係があるところのものなんでしょうが、どこのものなのか、私は知りません」

そこまで言ってから、Yさんはぽつりと呟いた。

「寂しいもんです」

しげしさんは祠を見ながら、どこか虚しさを感じたという。

「T家は継ぐ者もおりませんし、千代さんで終わりですわ。祟り神になった曾祖母とそれを祀った祖母、札も祠も売り払ってしまった叔母……。今ここにある祠は、いったいなんのための祠なんでしょう……」

しげしさんの声を聴き、Yさんは祠を撫でた。しげしさんは空の祠に手を合わせ、Yさん宅を後にしたそうだ。

千代さんは一昨年に癌で入院し、摘出手術は成功したものの、術後の経過不良で、脳梗塞もみとめられるそうだ。現在も入院しているという。

しげしさんの曾祖母の代に生まれた祟りは、キヨさんの姑を呪い、キヨさんを呪い、キヨさんの息子の元へ嫁いだ千代さんを祟っている。

千代さんの家には男児が生まれなかった。男児が胎に宿ったとしても、流れてしまったのだ。祟る先が無くなったとき、ようやく祟り神となった曾祖母の魂は報われるのだろうか。

札を失った虚ろな祠は、今もYさんの庭にそっと置かれている。

(志月かなで 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©41330 PIXABAY

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