【虚ろな祠】前編

筆者によく怪談を聞かせてくれる体験者のひとりに、しげしさんという三重県在住の男性がいる。

しげしさんの母方の祖母・キヨさんの先祖がかつて口寄せをやっていたことから、今も血筋に霊的な存在を感じられるものがいるという。

しげしさんは家庭の事情から幼少期に祖母の家に住んでいたことがあり、庭の隅には祠があったそうだ。

(なんだろう、あれ?)

気になった幼いしげしさんが祠に近寄るべく庭に下りようとしたところ、祖母が

「あかんよ、あんたは!!」

と大声をあげ、しげしさんの頬をぶったことがある。以来、しげしさんは祠に触ることは許されていなかった。




しげしさんが九歳の時に祖母が亡くなると、しげしさんは親戚の間を転々とすることとなった。その翌年、しげしさんが祖母宅を訪れると、遠縁の親戚であるYさんという女性が家事手伝いとして出入りしていた。

しげしさんは庭の隅にある祠のことが気になり、Yさんに「あれは何ですか?」と尋ねたことがある。すると、Yさんは「祟り神ですわ」と答えたが、詳細は分からなかったそうだ。

筆者は昨年十月に発売された「三重の怖い話」に、しげしさんの体験である「人形の部屋」や「猿の手」を掲載した。

「人形の部屋」も「猿の手」も、しげしさんの祖母宅で起きた話である。だが庭の隅の祠の話は、詳細が不明だったので掲載していない。

すると、この本の発売後、しげしさんのもとに一本の電話があったという。電話の主はYさんだった。

「本を読んで、もしかしてと思って……」

Yさんは自分が家事手伝いとして通っていた家のことが書かれている本を読み、しげしさんに連絡をしたという。Yさんによれば、Yさんはしげしさんの祖母キヨさんから、除霊の類も教えてもらっていたそうだ。

Yさんはしげしさんに祠のことを尋ねられた時のことを覚えていた。

「あの祠は、キヨさんがしげしさんに託そうとしていた祠なんです。けれどあの後すぐに私も嫁ぐことになり、伝えずじまいで、すみません」

(そうだったのか……)この時点ではそれがどのような祠か、祖母がどうして自分に託そうとしたのかは分からないため、その時はここで話が終わったそうだ。

今年に入り、正月を過ぎた頃のことだった。しげしさんは朝から激しい悪寒を感じ、仕事を休み布団に入っていた。電話が鳴ったので出ると、Yさんだった。




「しげしさんですか?今、寒気しましたやろ。悪寒というやつや。実は、あの祠の事ですけん」

「ああ、あれがどうしました?」

Yさんは少し間をおいてから切り出した。

「……あの祠、壊すことにしたそうですよ」

「えっ、あの祠をですか?」

「あそこには嫁の千代さん一人ですけん、仕方ないでしょうが……私ね、あの祠頂けんやろかって聞いたんですよ、千代さんに。そしたらいくら出します?って。千代さんらしいわ」

千代さんはしげしさんの叔母にあたる人物で、嫁姑にあたるキヨさんとは大変折り合いが悪かった。

理由は嫁いできた千代さんが「私は畑仕事はやりませんから」と、キヨさん夫妻が持っていた田畑を売ったことによる。現在はキヨさん宅の離れを壊したところに家を建てて住んでおり、キヨさん宅の庭にあるものは千代さんに所有権があった。

(畑だけでなく、祠まで勝手に売ろうなんて……。全然変わっていない……)

千代さんに対し、しげしさんは激しい憎悪を抱いた。Yさんは話を続ける。

「祠、買う事にしましたんや。でね、私の家に設置しますけん、一度来てくださいな」

住所を聞くと、Yさんの家はしげしさんの現在の住まいの隣町だった。

(意外と近いな……)

「わかりました。今日は具合が悪いので、また改めて」

しげしさんはそう答え、電話を切った。【後編へ続く】

(志月かなで 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像 Mist covered sunset over small village / taiyofj

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