母に纏わる因縁話【後編】

画像©Gerd Altmann PIXABAY

前編から続く

しげしさんが、母の大切にしていたフランス人形にかかわる霊的な体験をした翌年のことだ。

受験を前にしたしげしさんは、繰り返し同じ夢を見るようになったという。毎晩のように繰り返す夢の中では、無数の手が自分を引きずりこもうとしている。

(やめろ……!やめてくれ……!)

翌朝、しげしさんが目を覚ましてリビングに下りていくと、きまって母は優しかったという。

(まただ……。あの夢を見た後、いつも母さんは優しい……)

そして、母はいつもしげしさんに「ごめんね……」と謝っていた。

(一体何なんだ……?)

しげしさんはそんな母に違和感を覚えていたものの、夢のことは話さずに過ごした。

そしてある夜、床に就いたしげしさんは、あの夢に出てくる手に足首をつかまれた。

(また、あの夢か……)

振り払おうとしたところで気がついた。夢とは違って、生々しい感覚がそこにあった。

(違う……!夢じゃない……!)

夢の中で現れていた手に、いま、現実で足を掴まれている。しげしさんの足首を握っている手は、夢の中と同じように、しげしさんをどこかへ引きずりこもうとしていた。

(でも、この手……温かい……?何かから守ろうとしてくれている?)

だがそう思ったのも一瞬で、次第に手は冷たくなっていった。




翌朝、しげしさんは目を覚ました。意識を失っていたようだ。どうにも夢と現実の境目が分からない。いつもと同じようにリビングに下りていくと、また母親が謝った。「ごめんね、しげし」と。

「……どういうこと?母さん、何か知っているの?」
「ああ……。母さんね……」

母は小さく息を吸い込むと、息子にこう告げた。

「夢で誰かに足を触られて、……いつもきまって、闇に引き込まれるんだよ」

しげしさんはそれを聞いて思わず口を開いた。

「僕もその夢を見てる!……昨日は、体温まで感じた」

すると、母は静かに泣き出した。母さんの血筋のせいなんだ、と。

「……どういう仕組みかはわからないけど、あの夢の後で必ず一人は見て連れて行かれる。私らの代で終わるはずだったのに……」

母によれば、先祖が口寄せを生業にしてきた因縁ゆえか、母方の家系において兄弟のうち必ず一人は早くに亡くなるという。

女の子は特に連れて行かれやすく、前述したように、母は一番上の姉と末弟を亡くしている。(※母の姉に纏わる話は拙著「三重の怖い話」の中の「人形の部屋」で紹介している。また、三歳で息を引き取った末弟のことは「猿の手」に記している。)

「あんたの伯母も、昔同じ夢を見たそうだ。でも本人は何ともならなかった。けれど、その後に伯母の息子が亡くなったんだよ。だから私も……」

しげしさんとその弟、二人の息子のどちらかを亡くすのではと、長い間内心怯えていたそうだ。幸い、しげしさんは連れていかれることはなかった。

だが、その後も複数の原因不明の出来事が、しげしさんの家系に降りかかったという。

まずは、しげしさんが結婚した後のことだ。生後一年未満の長男が突然の高熱に魘された。慌てて病院に連れて行き、処方された薬を飲ませたが、熱は一週間ほど収まらなかった。


画像©Pexels PIXABAY

やがて生まれた次男は、生後一年未満のある日、てんかんを起こした。その直後、長男と同じようにして高熱を出したという。

長男の時と同じように医者に見せたが薬は効かず、病名も不明とのことだった。

(まただ……どうして……)

ふと、母に聞かされたあの因縁話のことが思い出されたが、二人の息子はともに無事に回復し、因縁は断ち切れたかに思われた。

だが、因縁はそう簡単に遠ざかってはくれなかった。

しげしさんの三男は、長男、次男よりも早く、生後三か月で高熱を出したのだ。痙攣を起こして即時入院となり、高熱に泣き続けた。医者は深刻な顔でしげしさん夫妻にこう告げた。

「髄膜に何らかのウイルスが入った可能性があります。今夜が山場です」

しげしさん夫妻は一時、愛する息子の死を覚悟したという。

幸いなことに三男もまた一命をとりとめたが、現在でも後遺症の障がいが残ったままだという。三男の母子手帳には、「髄膜炎等病名?」と、クエスチョンマークがつけられていたことを、しげしさんは今でもはっきりと覚えているそうだ。

それからさらに時は過ぎ、今から十三年前にはこんなことがあった。

しげしさんはその年、一年で四回の葬式を出したのだという。しげしさんの妻の母から始まり、しげしさんの父、しげしさんの妻、しげしさんの母の順に亡くなったそうだ。

幼少の頃に亡くなったわけではないので、連れていかれたとは言えないだろうが、妙にひっかかったという。




しげしさんは語る。

「どうしてこの血筋が『連れていかれる』のか、その理由は、結局誰も教えてくれませんでした。
けれど十三年前に亡くなった母が生前“私で終わってほしい”と嘆いていたのを、今でも思い出すんです」

最後に、しげしさんは現在懸念していることを話してくれた。

「四年前に、僕の弟が四十六歳の若さで急死したんです。精神薬の飲みすぎで、血を吐いて。病名としては、心不全となっていましたが」

弟が亡くなったのもまた、幼い頃ではない。ゆえに、連れていかれたとは呼べないだろうが、末恐ろしいものを感じているという。

「それと、自分には霊的な力が残っている事が一番気になっています。弟の娘である姪は女の子なので、口寄せの隔世遺伝がないだろうかということも……」

しげしさんの家系に纏わる因縁が断ち切れていることを願ってやまない。

(志月かなで 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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