はなこさん

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これは三重県在住の男性・しげしさんの中学生の頃の体験である。

しげしさんは幼少から複数の霊体験がある男性で、祖母の死をきっかけに、人のオーラや霊的な存在が視えるようになったという。

ネグレクトを受けていたしげしさんは、親族の間を転々とする生活をしながら、中学生となった。家庭環境のこともあり、クラスには中々馴染めず、よく授業をさぼっていた。

その頃、同級生に「はなこさん」という女の子がいた。いつも窓際に座り、外を見ている子だった。はなこさんは授業中でもふらっと外に出ていってしまうので、しげしさんは「はなこさんを探しに行ってきます」と先生にことわって教室を出ることがよくあった。

とはいえ、真面目に探していたわけではなく、しげしさんもしげしさんで、はなこさんをダシにして屋上でサボっていたという。

そんなある日のことだ。しげしさんがいつものようにはなこさんを口実に授業を抜け出して屋上で横になっていると、ふと、隣に気配を感じた。

「うわっ!?」

しげしさんが驚いて起き上がると、隣に立っていたのは、はなこさんだった。はなこさんがしげしさんを見下ろしてからかうように言った。

「また私をダシにしてサボってるんでしょ」

そういうと彼女はにこりと笑った。はなこさんが笑うのを見るのは初めてだった。

「……は、なこさんこそ、どうして俺がここにいるって分かったの?」

そう問いかけると、彼女は少しばかり寂し気に俯いた。次の瞬間、しげしさんは、彼女の背中に闇が広がっていることに気が付いた。

(あ、やばい……!)

危ないとは思ったものの、しげしさんには祓う力などはないため、闇が広がるのをただ見ているだけだ。まるで目の前の女の子そのものが闇のようだった。


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「さ、私と行きましょう」

はなこさんがしげしさんの手を取る。しげしさんは慌ててその手を振りほどいた。

(声が出ない……!)

せめて距離を取ろうと走り出そうとするが、足が全く動かない。

(飲み込まれる……!!)

ぎゅっと目を瞑った時だった。

「お前、ここで何してるんだ?」

男性の声をきっかけに、体の硬直がとけた。金縛りにあったようにまるで動かなかった足が、ふっと軽くなったのがわかる。

声の主は、用務員だった。用務員はしげしさんを見るとあきれたようにして、

「またお前か」

と言った。しげしさんがさぼりの常習犯だったからだ。

用務員は、しげしさんがクラスで浮いているのも何となく把握していたのだろう。教室に戻れと無理に促すでもなく、いつも見逃してくれていた。そんな用務員が、今日は救世主に思えた。身体が動く。声も出る。

「あいつ、やばいですよ……!」

しげしさんがそう訴えると、すると用務員は首を傾いだ。

「あいつって、誰のことだ?」

しげしさんが屋上を見渡すが、はなこさんの姿はない。

そんなしげしさんの様子を見て、用務員は合点したように小さく呟いた。

「ああ、また……花子か」


画像©sumochannu photoAC




含みのある物言いに、しげしさんが問いを向ける。

「えっ、……どういうことですか?」

まさかクラスメイトが霊的なものに取り憑かれているのを、この男性は知っているのだろうか。しげしさんが向けた問いに、用務員は口を開いた。

「ああ、ありゃあ、戦後少し経った頃だった。生徒数の多いマンモス中学から分離する形でこの中学校が出来たばかりの頃だ。一人の女の子が転校して来た」

急に始まった昔話に、しげしさんは疑問を抱いたまま耳を傾ける。

「この辺りの人間はよそ者をとにかく嫌う。わしも別のところから来たばかりの新任教師で、クラスの中で浮いてしまうその子のことをどうにもできなかった」

どうやら用務員は以前は教師をしていたらしい。話は続いている。

「それからしばらくして、早朝に出勤した時のことだった。この……ちょうど屋上の下にあたる花壇で、血を流して倒れている花子を見つけたんよ」

しげしさんは目を瞠った。

「えっ……」

「もうすでに亡くなっていたよ。わしは何も出来なかったことから自責の念にかられて、教師を辞めたんだ。けれど、花子の死後しばらく経っても、花子は誰かに殺されたんだという噂が絶えなかった。花子を見たという生徒も大勢いた」「もしあんたが花子を見たんなら、あんたの中にある何かが花子を呼んだのかもしれん……」

用務員はそこまで話すと、静かに背を向けて立ち去った。

(そういえば……これまで授業中にはなこさんが抜け出しても、先生は一度も止めなかった。それどころか、俺が追いかけても何も言わない……)

しげしさんは、クラスメイトだと思っていた女の子は自分にしか見えておらず、かつ、とうの昔に死んでいたと知り、ぞっとしたという。

その後、しげしさんは図書館で当時の新聞を調べたが、どこにもそれらしい記述は見当たらなかった。

(本当に転落死したのなら、何らかの記述はあっていいはずなのに……)

情報が見当たらないことに違和感を覚えたしげしさんは、今度は学校の図書室に残っていたアルバムを手当たり次第にめくり始めた。

(卒業していないなら、卒業アルバムには名前がないはずだし……)

捜索にのめり込んでいたしげしさんだったが、ある時ふと、アルバムをめくる手を止めたという。

(……いや、やっぱり探すのはやめよう)

当時のしげしさんは精神的に消耗していたため、悪霊に取り憑かれたのだと自分を納得させたそうだ。

これはまだ「学校の怪談」で「トイレの花子さん」が有名になる前の話だ。

筆者はこの話のほかにも「これまで普通に存在していた相手が、ある日急に消えてしまった」という類の話を耳にしたことがある。今この文章を読んでいるあなたのすぐ近くにも、案外霊的な存在はいるのかもしれない。

(志月かなで 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

【志月かなで】
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