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これはMさんという男性の体験談である。Mさんは十年ほど前まで警察官をしており、勤務中に様々な怪異体験をしているという。

今回はそのうちの一つを紹介したい。

Mさんはが通っていた警察学校はもともと旧日本軍の施設であったらしく、その名残か、施設内には防空壕の跡もあったそうだ。ある日、Mさんは先輩からこんな問いかけを受けたという。

「ここで出る幽霊の話、知ってるか?」
「え……!?何か出るんですか」

Mさんが問いかけると、先輩はこの敷地内で起こる複数の怪異について語ってくれたそうだ。いくつもある怪異のひとつに、「柔道剣道場の入口は閉めてはいけない」という話があった。

警察学校の敷地内にある柔道剣道場の入口はガラスのはめ込まれた引き戸となっていたが、Mさんが在学中、一度も扉が閉まっているのを見たことがないという。この扉はいつも必ず開け放たれており、もしも閉めてしまうと、必ず内側からガラスが割れてしまうのだそうだ。

「俺も実際に見たけどさ。鍵をかけたんだから中には誰もいないはずなのに、必ず内側から割れるんだよ」

Mさんの先輩のほかにも複数名がこの怪異に遭遇し、以来、開け放たれたままだという。


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「こんなのは序の口でさ、もっとやばいのもある。訓練や虐めに耐えられず自殺した学生が出るとか、殉職した首のない機動隊員が徘徊しているとか……。ただ、一番怖いのはさ……」

先輩は一度言葉を区切ってから、声をひそめて続けた。

「うちの敷地、隣が精神病院だろ。あっちに関連する話のほうが、怖いんだよ。桜にぶら下がる霊の話ってのがあって……」

警察学校の隣には大きな精神病院があり、Mさんたちの暮らす学生寮と隣の精神病院の病棟はフェンス越しに隣接していた。そして、フェンスのこちら側には桜の樹が等間隔で植えられている。




以前、病気を苦にした患者が病棟の非常階段から飛び降りたことがあった。その患者はフェンスを飛び越えてこちら側の桜の樹の枝と枝の間に首がひっかかり、発見された時には首吊りの状態だったという。

それ以来、桜の枝の間で揺れる影を見る人間が後を絶たないのだそうだ。

「それは……怖いですね……」
(まあ、でも実際に見ることなんてないだろうな……)

Mさんはそう考えていたが、実際にその怪異に遭遇することになる。警察学校の学生は夜間に交代制で敷地内の巡回をするのだが、同期達が口々にこう話すようになったのだ。


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「さっきの見回りの時、あの桜に女性がぶら下がっているのを見た……」
「マジであそこやばいって、怖え……!」
「俺らの部屋から、あの桜見えるだろ?お前のベッド、窓側だから気を付けろよな~」

Mさんらは十人ほどの大部屋に寝泊まりしており、Mさんはその桜の樹が見える窓側のベッドで寝起きをしていた。

(いつか俺もその霊を見ることがあるのかな……)

そして、Mさん自身も、その霊に遭遇することになった。




ある晩のことだ。同期と二人で夜の見回りをしていると、同期が足を止めた。

「おい……あれって……」

いやな予感がして桜の樹を見ると、そこに人間らしき影がぶら下がって揺れていたという。

(やっぱり、この学校には霊がいる……。先輩の話は本当だったんだ……)

そして、Mさんは卒業までに他にも奇妙な経験をすることになった。


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また別の夜のことだ。大部屋の窓際にあるベッドで眠っていると、金縛りにあって目が覚めた。これまで金縛りにあったことはなく、人生で初めての経験に驚いたという。

(なんだ、これ……!?)

もがこうとしたが身体は動かず、声も出せない。すると自分を取り囲むようにして、

ざわ……ざわ……

と、話をしている大勢の気配があることに気が付いた。

(何か……話してる……?)

よくよく意識を傾けると、それは子供たちの声のようだ。Mさんは、まるで幼稚園や保育園の中のような錯覚があったという。

(でも姿が見えない……)

ふっと、ベッドの下から気配を感じた。

(下、か……?)

どうにか目だけを動かしてMさんがベッドの下を見ると、そこには身長30センチほどの子どもが100人ほど立っていた。全員が病院着のような同じ服を身に纏い、青白い顔で、Mさんの顔をじっと見つめている。

「うわぁ!!」

Mさんは驚きのあまり声を上げ、その瞬間、金縛りから解放されたという。

Mさんは語る。

「あの小さな子供たちが何者だったかはわからないままです。ただ、全員、病院着のようなものを着ていました。だから、隣の病院に通っていた患者だったのではないかと思ったんです。もしかしたら、何か俺に伝えたかったのかも……」

桜の樹にぶら下がる人影も、Mさんの枕元に立っていた子どもたちも、単純に生者を驚かせたくて出てきているのではないだろう。霊たちは、自分たちのことを知ってほしい、無念だった気持ちを分かってほしいと生者に訴えかけ続けているのではないだろうか。

怪談を扱う身として、いつか彼らの思いが報われることを願うばかりである。

(志月かなで 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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