
動画配信(ライブストリーミング)という革命
人類の歴史の上で、技術の進歩によって世の中の在り方が根本的にかわってしまうという、革命的な出来事がおこることがある。一番強烈だったのは産業革命で、蒸気機関により人と物に関する移動の量と時間が爆発的に変化した。
そもそも、一般の庶民が時間なんていうものを、細かく気にしなくてはいけなくなったのは、汽車が時刻表通りに走るため、時計を見るようになったのが始まりである。
次が今、我々が経験しているコンピューター化社会であり、なかでもインターネットの出現である。
世の中が変われば、驚くべきことに芸能界も変わり始めた。「驚くべきことに」と言ったのは、日本の芸能界はひじょ~に閉鎖的かつ非現代的、というよりも前時代的(それも昭和とか明治ではなく、江戸時代)なところだからである。
このことは拙者による一連の記事で触れてきた。
芸能界には古い利権と因習があり、芸能活動というものは、必ずといっっていいほどに、この腐ったシステムに入り込まなければ成立をしなかった。
たとえば、今私が商業映画を撮ろうと思ったとする。繁華街のロケが必要なので、渋谷の街で撮影をしようとしたとすると、まず警察に街頭での撮影許可をもらうことになる。場合によっては、道路の使用許可も必要なのであるが、このような公的な許可とは別に、とある人々の許可が必要なのである。
その渋谷の街を統べる、ヤクザやテキヤなどなど、その筋の方々である。
なんだってその筋の方々の許可が必要かというと、それは芸能というものがすべからく、その筋の方々の生活手段としてのみ存在をしてきたからである。これを社会資本の既得権益と考えていただければわかりやすい。
ただ、現在この撮影にともなう“お礼金”はたいした額ではなく、数万円程度である。それでいて既得権益の保持者であるその筋の方々は、その誇示のために何かしら人を出してくださり、交通誘導なんぞもしてくださっている。別に搾取というわけではないのである。
さて、その古風な芸能界に今、新しい風が吹き始めている。
インターネットを通じたライブ動画配信である。ATLASの読者の中にも、多くの方が既に視聴をされているかもしれないが、ユーチューブをはじめとしたいくつかの企業が、個人のライブ動画を配信している。
そのうちのいくつかは、日本国内だけではなく、国際的にアクセスができるものであり、サイトのシステムやルールは統一されている。
一つの例として、東証一部上場企業であるDeNAが運営する【POCOCHA】(ポコチャ)をあげてみよう。
システムは簡単であり、もしあなたがライブで何かやってみたいなと思えば、その内容は歌であろうがダンスであろうが、はたまた、ただのトークであってもかまわない(ポコチャで一番多いのはこのただのトークである)。
始め方は簡単で、まずスマホにアプリをダウンロードしたらボタンを押せばいい。それだけでもうあなたはライブ配信者(これを称して「ライバー」という)である。
もちろん各種の規約があるが、おおむね常識的なものである。スマホの向こうにはライブ配信を楽しみたいと思っている、人々がいて(こちらをリスナーという)そのリスナーがあなたを見つけてくれたら(そういうサービス機能もついている)配信はひとまず成功だ。
なのだが、なんでこれが芸能界に吹き込む新しい風かといえば、ここに二つの金の流れがあるからである。
一つは“投げ銭”といわれるサイト内の課金システムによる、ライバーへと直接チップとして金がもらえるもの。もちろんサイトの運営者はマージンを取る。ライバーは全くの個人でもいいのだが、そこは商売でDeNAは、そこそこのレベルの美女・美男・歌手・演奏家などをある程度の数そろえた事務所を募るようになってきた。
ほら、芸能界っぽくなってきたでしょ?
そしてその事務所に対して、ある一定以上のレベルのライバー(大きく7ランクあるうちの上から4番目まで)を揃えることが出来ると、協賛金として1700万ほどが貰える仕組みになっている。
芸能界っぽくなっても、ここは新興の市場のために古くからの既得権益がない。したがって、従来芸能とは関係のない業者や個人が参入をしてしのぎを削りあっているという現状が生まれてしまったのだ。
「だったんですけれどね、それがそうとも言えなくなってきたんですよ」
そう教えてくれたのは、本業はネットセキュリティーのエンジニアである、ネットアイドル・ウォッチャーであった。
「このライバー市場て、見てみれば判るんですが、もう圧倒的に女性の率が高いんですよ。その意味では地下アイドル市場によく似ています」
つまり、コンテンツというか、見世物の質としては女の子のカワイイを売らなきゃいけないと?
「基本はそうです。カワイイと、双方向のコメントが行き来するので、自分の承認欲求を満たしたいひとには最適です」
ゴメン、ちょっと難しいです・・・。
「あのですね。スマホの向こうの可愛い女の子がね、コメントした人にですよ、わざわざ『何々さんありがとうっ』『うれしぃ~!』なんて、言ってくれるしますよね。それって、実際はものすごい距離がある人物なのに、ものすごく身近だと幻覚を見せられるわけですよ」
某国民的アイドルグループの握手会と同じじゃないですか。
「はい、極めて近いですね。親和性はものスゴくある。それなんで入ってきちゃったんですよ」
なにが?
「国民的アイドルグループの運営をしている連中が」
えっ!
「すでに専門の事務所を立ち上げて、数多くのライバーを抱えています」
あらー、イヤな話ですね。
「でね、もっとイヤな話なんですが、彼ら、『ある程度見てくれの良い』や『歌ったり踊ったりできる素人』を集めるより、過去に芸能界の経験のある中古品をレストアして売れば効率がいいんじゃないかって、考えたんですよ」
レストアしたアイドル?
「あの膨大な数がいた、某国民的アイドルのいくつものグループで、卒業後も芸能活動をしていたり、芸能界に未練がある子たちを集めてですね『元〇〇の何々ですぅ』って、タグ付けして売り出したんです」
それ、上手くいっているんですか?
「ライバーによりけりなんですが、6割がたの成功といったところですかね。ほらCランク以上のライバーをそろえれば、それだけでDeNAから1700万円以上の協賛金が出るわけですから。スマホのキャリアが通信費を使ってくれるので、そのぶんのキックバックで資金も流れています」
レストアされた子たちにしても、夢よもう一度っていうわけですか?
「ええ、ただね。一時的にリスナーがついたとしてどこまで商売になるか。ライブ配信の場合、リスナーって、ただ見る人がいくらいてもダメで、課金したアイテムを買って、彼女たちに投げ銭してくれなきゃあまり意味がないんですよ。ライバーは次から次と新しい子が毎日出てくるのでかなり苦しいと思います」
ビジネスモデルとして成功かどうかはまだ・・・
「わかりません。ボクの見たところ、長期的には失敗するかなって思っています。ネットの魅力って自由さじゃないですか?誰にも指図されずにできるからユーチューバーも人気があるわけで、大人の芸能事務所の古い理論ややり口はやはり時代的に無理があるかなってね」
うーん、個人的にはそんなものコケてほしいが、この先、ある意味目を離せない業界である。
(ヴァールハイト及部 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©Dick Thomas Johnson
【著者紹介:ヴァールハイト及部 1968年 横浜市出身 大学卒業後サラリーマン生活を経て、フリーランスとして、映画・ショービジネス界で仕事をしている。芸能界ウォッチーでもある。】