エゴな大人たちに振り回された“娘”たちの残酷物語

集団アイドルのひたむきな現実

いまや、集団アイドルの花盛りである。AKBグループとそこから派生させた坂道グループが最たるものだが、この手のビジネスモデルを成功させたのは、やはり、テレビ局のオーディション番組からでてきた某グループだ。

仮に“娘”たちとでも言っておこうか。

多くのファンを取り込み、飽きさせずにお金を使ってもらうため、プロデューサーたちは、あの手この手のイベントを企画する。

あるとき、そのうちの誰かが、このユニット二つを合わせて、芝居をさせようと考えた。合わせてその劇場で、物販と握手会を催して一石三鳥ぐらいで儲けようとした。

まあ、それぐらいならまだ良かったのだが、この欲ボケしたプロデューサーたちは、然るべき劇場で開催する演劇というものがどういうものであるのか、全く理解をしていなかったのである。

もう、おわかりであろうが、ここから悲劇が起こっていくのである。




「ヒドいもんでした」と、語ってくれたのは、この舞台に大事な脇役として出演していたベテラン俳優である。仮にS氏としておこう。

 どう、酷かったんですか?

「最初に言っておくけれど、“娘”の子たちは、本当によく頑張ってくれていたんですよ。問題は運営側にあったんだよ、100パーセント!」

 ああ、想像つきますよ。

「まずね、最初に上演のスケジュールをもらったとき、一日3ステージだったのに驚いたのよ」

 えっ、3ステージ?

「うん、3ステージ。普通は舞台って、平日は一日ワンステージで、週末だけ昼夜の2ステージて、いうのがほとんどでしょ?」

 ええ、マチネとソワレていうやつですよね。

「そう。それがさ、連日3ステージやるの。俺ね、随分と長く役者をやっているけれど、一日3ステージなんてもの見たことも聞いたこともないよ」

 それは、その分お客さんを多く入れるっていうことですよね。

「そう、だけれど役者の体力を考えたら無茶もいいところなんだよ。しかもね、そのステージの合間に“娘”の子たちは、ファンの連中と別料金のハイタッチ会っていうのをやらされていて、休む暇もないのよ」

 そりゃあ、キツそうだなあ、いくら若いからっていってもねぇ……。

「そもそもね、この芝居ってまともに稽古をしていないのよ」

 はあっ?

「あのね、“娘”の子たちって、年がら年中イベントだテレビ出演だって、引っ張りまわされていてさ。メンバー全員が揃っての通し稽古はとうとう一度もやれなかったんだよ。さすがに舞台監督がブチ切れてね、『お前ら演劇をなめてんのか‼』て怒鳴っちゃったんだ。そうしたら“娘”たちが、『稽古に出たくても出してもらえません。いったい私たちにどうしろっていうんですか!』て、もう大号泣しだす有様でさ」

 じゃあ、ゲネプロ(メイクもして衣装も着けて本番通りに行う最終の舞台稽古)もなしで?

「マスコミ用の公開稽古が実質ゲネプロだったんだけれどね。このときさ、衣装も小道具もなにもなかったんだよ」

 すみません、意味が分からないのですけれど……。

「この芝居はヨーロッパ近世が舞台なんだよ。だからさあ、最低でもそれ風の衣装と剣や盾なんかの武器は必要なの。なんだけれど、プロデューサーのスットコドッコイどもが、ジーパンとTシャツで稽古をしている“娘”たちを見て、『うーん、このままでいいんじゃないの?』なんて言ってね、ほんとに私服のジーパンとTシャツでやらせようとしたのよ。衣装代がかからなくてすむからさあ」

 ある意味斬新ですね。

「まあ、さすがに舞台監督や俺たちが文句言ったんで、シブシブ衣装は揃えたんだけれど、小道具やのたぐいは一切手配をしなかったんだよ」

 で、どうしたんですか?

「本当にこのときは舞台を降りようかと思ったんだけれど、あの子たちが一生懸命にやっているんでね。脇を固めている小劇場出身の役者たちに声をかけて、ホームセンターで材料を買ってきて、自分たちで剣だのカブトだのを作って間に合わせたんだよ。ほら、小劇場の人間てそういう仕事では鍛えられているからね」

 いやぁ、ちょっと待ってくださいよ。出演者が自腹切って、その上に小道具作るって、まがりなりにもワンステージ800人近く入れる劇場公演でやっていいことじゃないでしょう?

「分かっているよ。そんなこと。だけどね、“娘”の子たちがあまりにも不憫だったんだよ。恨むべきは運営の側だけだからね」




芸能界の常識をこえた非常識舞台だったわけだ。ただ、驚くべきことにこの舞台の出来はそれほど悪くはなかった。S氏の話によれば、彼女たちはなけなしの時間をやり繰りして、個人間で連絡を取り合い、自分たちなりのプチ稽古をしていたのだという。

なんという涙ぐましさだろう。

この舞台は一応の成功ということで幕を引いたのだが、その後、このユニットは解散したり、あるメンバーは芸能界から引退をしたりしている。

情熱とやりがいの搾取……でしかなかったのだろうか。まったくもって胸が痛む話である。

(ヴァールハイト及部 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©kaykaybarrie

【著者紹介:ヴァールハイト及部 1968年 横浜市出身 大学卒業後サラリーマン生活を経て、フリーランスとして、映画・ショービジネス界で仕事をしている。芸能界ウォッチーでもある。】

 

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