自衛隊にまつわる怪談話

画像©ヘイヘイ

体験者はKさんという元自衛隊員の男性である。Kさんは横須賀で教育訓練を終えた後、新潟のとある隊に配属となった。

これはKさんが十八歳から二十二歳までの四年間で先輩から聞いたり、実際に体験した話である。

全国各地で、旧軍からの駐屯地の多くは一部が資料館となっている。Kさんの配属された地域にかつてあった聯隊は、激戦にばかり配置されていた。そのためか、兵士は自然と郷土に強い思い入れを持っていたという。実際にKさんが勤務していた駐屯地にあった資料館にも、戦時中の資料も血染めの戦闘服などが展示されていた。

Kさんの先輩の男性であるRさんは、駐屯地の火災隊に所属していた。そして、駐屯地内の建物を夜中に見回りしていた時にこんな体験をしているという。

それはある夜、Rさんが二人体制で隊舎を見回りしていた時のことだ。Rさんは目の前の光景に驚き、思わず足を止めた。

(嘘……だろ……)

本来、駐屯地の隊舎と資料館の間にあるはずの壁がきれいに消えており、隊舎にいるRさんの目にあるものが飛び込んできた。

それは、血染めの戦闘服だったという。


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次に紹介するのは、同じ駐屯地でKさんの先輩であるIさんが体験した話だ。

Iさんは当時教育隊に所属しており、十人ほどを纏めている班長だった。班長には当直があるのだが、ずっと起きてなくている必要はなく、消灯時間は好きにできる。

(よし、ちょっと仮眠するか)

Iさんは古い学校の木造校舎のような隊舎で眠りについた。十畳くらいの個室に置かれているベッドで横になっていると、深夜二時頃、声が聞こえた。

「おい」

Iさんは無視をしたが、声は続いた。

「おい」

Iさんがパッと目をあけると、自分のすぐ隣に人が立っていた。服装からして現代の人間ではない。旧軍の少尉のように見えた。




(うわっ、やべえもん見た……!)

そうは思いながらも、Iさんは視線を逸らすことが出来ない。するとその少尉らしき人物はこう言った。

「今の自衛隊はなっとらん、軟弱だ!」
「すみません!!」

そのまま、Iさんは長々と説教を受けたという。まどろみの中だから聞けていたが、正気に戻った時にはゾッとしてしまい、中隊の自分の部屋に逃げ帰ったそうだ。


画像©MIKI Yoshihito. (#mikiyoshihito)

同じ駐屯地で、Kさんの大先輩にあたるOさんはこんな体験をしている。

Oさんは三島由紀夫割腹の際の演説に立ち会ったことがあるという、生きる伝説と呼ばれた教官である。

Oさんが入隊したばかりの新隊員に対して、隊舎で夜間訓練をしていた時のことだ。夜間訓練のうちのひとつに、静かに歩くというものがあった。隊舎の端と端に階段があり、その部分だけは電気がついているが、長い廊下は真っ暗だ。

新隊員は階段の端からのぼり、闇の続く廊下を足音を立てずに進み、端の階段から下まで降りる。Oさんは真っ暗の廊下の真ん中、壁際に寄ったところに伏せて、新隊員の出来栄えを確認していた。

(今年は十人……さて、どんなものか)

新隊員は全員がブーツのような軍靴を履いているため、歩くと床が軋む。一人ひとりの出来栄えを確認しながら、終わった人数を数えていく。

(……今ので十人か、終わりだな)
Oさんが立ち上がろうとしたとき、階段からさらに一人の姿が見えた。

(……もう一人いたのか。いや、俺の数え間違いか……?)

Oさんは再度その場に伏せて、新隊員が通り過ぎるのを待った。

(こいつ……本当に新隊員か?あまりにも上手すぎる……)

Oさんからは廊下を歩いていく新隊員の足が見えていたが、初めてとは思えないほどに足音がまったくしなかった。

(誰か俺を驚かせようとして、年季の入ったやつが訓練に混ざったんだな)

十一人目が通り過ぎた後、Oさんは身を起こして、端の階段から下に降りた。新隊員に声をかける。

「おい、最後の十一人目は誰だ?他の班長か?」

問いを受けた新隊員は惑うようにして互いに顔を見合わせてからこう言った。

「いや、誰も行ってませんよ」

嘘を吐いていない新隊員たちの様子を見て、Oさんは困惑した。

(じゃあ、最後の一人は一体、誰なんだ……?)


画像©lasta29

最後に、Kさんが実際に体験した話を紹介したい。

Kさんが駐屯地の警備をしていた二十一歳頃の話だ。 巡察の時に、火災隊は火元を見回り、警備は不審者がいないかを中心に見回りをする。勤務中は二時間の仮眠が与えられ、何時間か起きに順繰りで休憩を回していた。

その夜、Kさんが仮眠をしていると、揺すり起こされた。

(うわっ!?寝過ごしたか!?緊急か!?)

とにかく急がねばと慌てて軍用ブーツを履いて仮眠室から出た。

「失礼しました!」

Kさんが声をあげて部屋に入ると、そこにいた先輩たちは目を丸くし、笑い出した。

「お前、早いぞ!」
「……いや、誰か起こしましたよね?緊急かと思って飛び起きたんですよ」

先輩たちは不思議そうに首をひねっていた。

「いや、……誰も起こしてないよ」
(どういうことだ……?)




Kさんは確かに揺り起こされた感覚があった。先輩の一人が続ける。

「ああ、でもたった今、神社で火災が起きたって」

先輩によれば、駐屯地のある地域の神社が放火で全焼する事件があったのだという。

Kさんは語る。

「僕は不思議とその神社の名前に繋がりがあって……。もしかしたら、その神社の関係の何かに揺り起こされたのではないかと思っているんです」

人を守る仕事である自衛隊では、その歴史や由来から、さまざまな怪談を耳にするという。Iさんの見た少尉の霊は、後輩の指導をしたいがために出て来たのかもしれず、Oさんの見た夜間訓練の霊は、かつての隊員が上手なお手本を見せたがっていたのかもしれない。

すべては人の想いにまつわるエピソードなのだと、筆者はKさんの話を通して改めて感じた。

(志月かなで ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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