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筆者は怪談師という仕事をしている。その中で、霊ではなく生霊という概念に出会うことが何度かあった。今回はそれを紹介したい。

まずは筆者がコインランドリーでアルバイトをしたときに知り合ったCさんという女性の体験である。

第一話

Cさんは小学生のころ、かぎっ子をしていた。

「ただいまー」

誰もいない家に声をかけて中に入り、鍵をかける。

(今日もお母さん、遅いのかな……)

靴をそろえて、手を洗い、二階に上がった。部屋でベッドに転がって漫画を読んでいると、ガララッと玄関の引き戸が開く音がした。

「ただいまー!」

聞こえて来たのは母親の声だった。

(あれっ、お母さん今日も遅いと思ってたけど、帰ってきた!)


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Cさんはすぐに階段を下りた。

「おかえりー!」

だが、そこに母親の姿はない。

(あれ、トイレかな)

トイレを確認するが、やはり母親の姿はなかった。そもそも、玄関に靴が出ていなかったのだ。




(すぐに出かけたのかな……。でも、荷物もなかったし……)

Cさんが不思議に思っていると、ガララッと玄関の引き戸が開いた。

「ただいまー!」

母親の声は、数分前に聞いたものとそっくり同じものだったという。

子を思う母の気持ちが、すぐに帰らなくちゃ、帰らなくちゃと思い、魂だけ先に家に帰ってきたのだろうと、Cさんは話してくれた。

帰ってきたのは、子を思う母の生霊だったのだ。

第二話

また、山口県にこんな家の話がある。筆者にこの話を聞かせてくれたのは、Nさんという男性である。

Nさんはアルバイト先で知り合ったAさんという女性(「寺の奥」の話に出てくる女性。興味があればこちらも合わせてお読みいただきたい)の家に出かけたことがある。

きっかけはAさんからの依頼だった。

「あのね、N君、色々見える人って言ってたじゃない?うちも一度見て欲しいの」

Aさんによれば、自分の家にどうやら霊的なものが複数いるらしく、見て欲しいのだという。

「え?いや、俺は確かに霊的なものが見えるけど、祓ったりなんかは出来ないよ」

「うん、でも私は見えないから、何に触れられているのかが分からなくて気味が悪くて……。ね、お願い!」

(うーん、確かに自分が見えも聞こえもしなかったら、何にどうされているかもわからなくて気持ち悪いよなあ……。)
「分かった、そういうことなら次の休みに行くよ」

そしてNさんはアルバイトが休みの日にAさんの家に向かった。山口市内にあるその家は、築二十年ほどの二階建ての家だった。

「お邪魔しまーす」


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玄関を入って右手に和室と縁側があるのだが、そこにはお爺さんの霊がうたたねをしていた。

(うお、早速……)

Nさんがそう思っていると、Aさんは家の中に案内した。

「いらっしゃい!来てくれてありがとう。早速なんだけどこっちで……」

Aさんには見えていないのだ。

(まあ、あのお爺さんは特に害はなさそうだな)

Nさんは案内されるままにAさんの家に入った。

「こっちの部屋が……」

Nさんは、示された部屋を覗いて驚いた。床の間の部分に、甲冑が座っているのだ。日本の武士のような甲冑で、黒く禍々しいオーラを纏っていた。

「この部屋にいると、気分が悪くって……」

「いや、この部屋はよくないよ……」

Nさんはすぐにその部屋を離れ、甲冑の耳に入らないような場所でこう言った。

「あの部屋、黒い甲冑の霊がいる。近寄らないほうがいい」

「そ、そうなんだ……。ありがとう。あの部屋で怪我することはないんだけど、危ないのはこっちで……」

Nさんは案内されるままに、二階へ続く階段へ向かった。

「この階段を使う度、いつも誰かに押されて落ちそうになるの」

(どういうことだ……?)

NさんはAさんに続いて階段をあがり、すぐに理由に気が付いた。階段の側面である壁から、勢いよく坊主の顔が飛び出してくるのだ。それも人間の大きさではない。160センチほどの坊主の頭部のみが、真横から突き出て、Aさんの身体を押しているのである。

「うわっ!また……!い、いまの分かった?」
「ああ……」

Nさんは階段を上り切って二階にあるAさんの部屋で、今見たものの話をした。

「そ、そうなんだ……。ありがとう。何がいるのか分かっただけでも助かる。対処法は思い当たらないけどね……」

Aさんは困ったような表情でそう言い、「お茶飲んでって」とリビングに案内した。

「ありがとう」

Nさんはダイニングテーブルの椅子に座り、茶の間に立つAさんを眺めていた。

(って、あれ)




そしてキッチンに立つもう一人の影に慌てて立ち上がった。

「すみません、ご挨拶もなしに」

それを見てAさんは首を傾げる。

「ええ?何やってるの?」

「いや、……え……?」

NさんはまじまじとAさんを見た。それから、キッチンに立つもう一人の存在を。エプロンを締めてキッチンに立つその女性は、こちらを振り返ることはない。

「………。」

Nさんは理解した。この女性は霊なのだと。

「Aさんのところって、ご両親、離婚されているんだっけ……」

「うん?そうだよ、話してなかったっけ」

(ということは、この女性は……)

Nさんはすべてを悟った。キッチンに立ち、作業をしている女性は、――Aさんの母親の生霊だったのだ。

「パーマをかけている髪が肩甲骨くらいまである、エプロン姿の人がね、キッチンにいるんだよ」

「ああ……、それはきっと、私のお母さんだね。離れざるをえなかったんだけど、最後の日まですごく心配をしていたの。……私は両親がどういう事情で別れたのか分からないけど、きっと子どもに対しては未練があったんだろうね……」

Aさんはしんみりとそう言ったという。

離婚後も子を思う母のあまりに強い気持ちが、別居しながらも家族の世話を焼いてしまう生霊となってしまったのだろう。

Cさんの体験と、Aさんの体験。そのどちらも、子を想う母の気持ちが何よりも強いことの証明である。

(志月かなで ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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