
芸能界には【バーター出演】という言葉がある。
いわゆる「抱き合わせ」というもので、例えば、テレビ局がAという有名な売れっ子俳優に出演を依頼したとき、Aが所属する芸能事務所側が、条件として若手であったり、長く業界にいる割にはあまり人気のない俳優たちを一緒に出演させることである。
これ自体は必ずしも悪いはなしではなく、事務所的にとって仕事のない男優女優へ仕事をふりわけ、彼ら彼女らに経験を積ませることができる。またテレビ局、あるいは映画製作会社においては、新人の発掘や意外な有能なバイプレーヤーを苦労せずに手配できるメリットがある。
しかしである、ときおり事務所側から困った俳優やタレントをゴリ押ししてくることがあるのだ。
「今ねえ、まさにそれで現場が困っている最中なんですよ」
そう教えてくれたのは、ある若手女優のLさんである。
どこの事務所のこと?
「○○ですよ」
ああっ、あのスゴい数の女性タレントのいる会社ですね。
「ええ。男もいますけれど、業界的には女事務所ですよね。まあ、制作にもかかわっている大手ですが、それ自体は別に問題ないです。また所属タレントはみんな綺麗な子たちだから…なんですけれど、一人ねー、超困った人が来ちゃったんですよ」
バーターの人?
「はい。バーターで突っ込まれたこの会社の社長の新しい愛人Zさんのことです」
ははあー、あそこの事務所の社長って、自分とこの所属タレントによく手を出すので業界じゃあ有名だよね。
「まったくその通りです。超有名な話です。それで、今回はものスゴく彼女のことが気に入っちゃていて、あっ、社長がZさんをですよ。で、バーターでいろんなドラマに突っ込みまくっているんですよ」
まあ、芸能界としては珍しいことではないですが……。
「ええ。なんですが、彼女スッゴく性格が悪くって、現場で態度がデカいというか、モノ凄く威張っているんです」
ちょと待ってくださいよ、Zは基本バーターで出してもらっているんだよね?
「はい、完全にバーター出演です。常識というか、普通はおとなしくしているじゃないですか。そういう人たちって…」
まあ、自分の実力でキャスティングされているわけじゃないからね。
「なんですけれど、『Zさんは社長の愛人なんで、敵に回したら最後だから』って、現場のプロデューサーやディレクターなんかもビビりまくって彼女の言いなりなんですよ。しかも彼女は自分がバーターだっていうことにコンプレックスがすごくあるらしく、その腹いせに私みたいな下の役者なんかにモノ凄くアタり散らすんですよ」
それって、一種のパワハラだね。
「というか、芸能界にそんな単語があれば、ですけれどね(笑)」
で、バーターの大もとの女優は誰なの?
「Yさんです」
なんだ!社長の元愛人じゃないの。
「ええ、だから元々は体育会系体質のYさんでさえも、ことZさんのことには目をつぶっちゃっているんです。しかも彼女…Zさんのほうですよ、この先もドラマ出演が目白押しなんですよ。私、そっちでもZさんと共演があって、もう今から胃が痛くなりそうです」
ああ、いったいこの手の奇妙で非常識な話は、この芸能界に一体いつからあって、いつになったら無くなるのだろうか……。
そうはいっても、まあ、きっと無くなることはないだろうな。
(ヴァールハイト及部 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
画像©Khusen Rustamov PIXABAY
【著者紹介:ヴァールハイト及部 1968年 横浜市出身 大学卒業後サラリーマン生活を経て、フリーランスとして、映画・ショービジネス界で仕事をしている。芸能界ウォッチーでもある。】