【日本の珍事件】昭和の横浜で大流行!?「時そば詐欺」ってなに?

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日本を代表する伝統的な話芸のひとつ「落語」。

その歴史は歴史は古く、元禄年間(1688年から1704年)には芝居小屋や風呂屋で身振り手振りでおもしろおかしい話をする「座敷噺」という今の寄席に近い興行スタイルが誕生して以来、令和時代の現在に至るまで発展を続けている。

特に江戸末期から明治にかけて誕生した話は「古典落語」として、今も演じられ(逆に昭和時代以降に生まれた落語は新作落語と呼ばれる)、また「寿限無」「まんじゅうこわい」「芝浜」といった有名な古典落語は、幅広い世代で高い知名度があり、小学生向けの教科書にも掲載されるほどである。

そんな日本の伝統芸能である落語を、犯罪の手口として悪用した人物がいた。

本稿では落語のような本当にあった犯罪譚「時そば詐欺」についてご紹介したい。




有名落語「時そば」

これから紹介するのは、山梨日日新聞という山梨県の地方紙に掲載された記事である。昭和51年(1976年)2月9日の社会面にて「外人が『時そば強盗』」というタイトルの記事が掲載された。

「時そば」とは古典落語の演目で、そば代のお金を一枚ずつ渡すときに、途中で「今いくつ(何時)だい?」と聞くことで帰ってきた答えの分のお金をごまかす、というお話である。

例えば、「1、2、3」と数えている間に(今が4時だと仮定して)「4時」と答えさせたら、「4」をスルーして「5、6、7…」と続いていくという、今どきの日本人ではまず引っかからない至極程度の低い詐欺テクニックなのだが、昔の日本人はそれほど騙されやすかった、という事かもしれない。

そんな、時そばを使った詐欺テクが、しかも外国人が昭和時代に使っていたというのだから、これは穏やかではない。一体どういうことなのだろうか?


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変な外国人

1976年(昭和51年)2月8日、神奈川県横浜市の某喫茶店にて一人の外国人が入店してきた。外国人はコーヒーを頼む訳ではなく、レジへ行き「(タバコの)『ハイライト』ガホシイデス」と伝えた(今は少なくなったが、昭和時代の喫茶店では必ずタバコが売っていたのである)。

「ああ、ハイライトですね。120円です」

外国人は120円のタバコを5000円札で支払い、レジ係はタバコと4880円を返した。

しかし、その直後、外国人は「アッ」という顔をしてポケットから1000円を取り出した。

「スイマセン。1000円デハライタイノデ、5000円ヲカエシテホシイデス」といい、レジ係は言う通りに5000円を外国人に返した。

そして外国人は返された5000円とさきほどのおつり4880円のうち1000円4枚、別のポケットに入れていた1000円札を1枚の計1万円の札束を見せて、「スイマセン。コンドハコレを1万円札二両替シテクレマセンカ?」と1万円に両替させた。

そして、外国人は「センキュー。タスカリマシタ」と1万円を受け取り、慌てて店を出たのである。

すると、レジ係は「変な外国人だったなぁ」と、つぶやき仕事に戻ったのだが、途中で「何かおかしいぞ……」と気が付いた。

そう。外国人は、120円のハイライトと、返してもらうべき4880円を持って行ってしまったのだ。

レジ係は急いで後を追ったが、外人の姿はなく「騙された!」と気が付いた時は時すでに遅しだったのである。

レジ係はすぐに警察署に訴えたのだが、横浜署によると「最近、外国人による金銭詐欺が流行っている」という。この事件の数日前にも、同じ外国人とみられる人物が、ホテルの喫茶店で同様の手口に引っ掛かりそうになった。だが、外国人慣れしているホテルの店員は騙すことができず、「オー、ミステーク」と言いながらお金を返したという。

以上のことから、この詐欺のテクニックは、途中で「両替」という一作業を挟むことで作業を混乱させ、さらに外国人慣れしていない日本人をターゲットにすることで、より一層混乱させるという手口なのである。

この詐欺の方法は「時そば詐欺」として、神奈川県の各地や東京でも行われていたという。もっとも、詐欺のテクニックとしてはあまりに稚拙で、防御可能(「両替はしていません」と断れば良い)なため、同様の詐欺は数か月で姿を消したという。





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■なぜ「時そば詐欺」なのか

さて、この「時そば詐欺」だが、前述の古典落語の「時そば」の説明を見て貰えばわかる通り、特に時そばに似ている訳ではない。

むしろ、わざと面倒な作業を行わせ騙して現金を奪う、という手口は同じ古典落語の「壺算」の方が近いと言わざるを得ない。

ではなぜ、「時そば詐欺」と呼ばれるのかというと、やはり「時そば」という落語が関東や関西問わず(関西では土地柄らしく「時そば」ではなく「時うどん」という演目に変化する)広く知られていたためと思われる。

電子マネーやクレジットカードなどが幅広く利用されている一方、現金主義もまだまだ根強い日本。江戸~明治に生まれ出た落語に学ぶことはまだまだ多いはずである。

(文:穂積昭雪 ミステリーニュースステーション・ATLAS編集部)

 

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