『人はなぜネコを飼いつづけるのか?』【上】

 イギリスの格言に『ネコ好きの男とは結婚してはいけません。なぜなら、他人を拘束しないかわりに、自分も拘束されないから』というものがある。つまり奥さんからの拘束を嫌う家庭向きではない人間というわけだ。

 なるほど、日本でも『ネコは呼べばこないが、呼ばないとやってくる』という手前勝手な生き物だといわれつづけている。
 じゃぁ、いったい何でこんな身勝手な生き物を家畜として人は飼いはじめ、そして飼いつづけているのだろう。

 今回は、そんなことを人とネコの歴史と民俗をからめて語っていきたいと思う。


画像©須恵器/福島県立博物館




ネコははたして家畜なのか?

 のっけから当たり前の話をして申し訳ないのだが、人間が必要に応じて飼う動物を家畜という。必要に(実用に)応じないでかわいがる動物はペットとよばれて、家畜には入れない。
 ハリネズミはいくらかわいがっても必要に応じていないからペットであって家畜ではないサルは必要に応じていなければペットだが、南の島でヤシの実をとらせるのならば、実用的なので家畜となってしまう。

 で、ネコである。そもそも人間がネコを飼い始めた理由はネズミ退治であることは有名である。
 古代エジプトで膨大な量の穀物がたくわえられるようになると、野生のネズミがここぞとばかりに人間様の生活圏に入りこんでエサを食い荒らした。

 その対抗策として野生のリビアヤマネコの子供を捕まえてきて、飼育したのがイエネコのはじまりである。昔はそれが約5千年前といわれていたが、最近の研究では1万年前までさかのぼるという。

 じゃあ、立派な家畜ではないか。

 事実日本の民俗学の始祖、柳田國男はネコは家畜であるとしている。しかし、お隣の中国では、人間が飼う家畜、六畜にはネコを入れていない。
 権威あるイギリスのブリタニカ大百科事典は、はっきりとネコは家畜ではないといっている。

 理由は、『全世界的にみて、その繁殖において人間の関与する割合は20パーセントほどであるため』だそうである。

 つまり、ネコというものはほぼ8割がたが勝手に交尾して、勝手に子を産んでふえているからというわけだ。
 生産管理されていないものは家畜ではない。やはり牧畜の伝統の長い民族はそうみるのだろう。


画像©福島県立博物館
 
日本にはいつ来た?

 さて、日本である。

 家畜かどうかはさておき、ネコが日本列島にやってきたのは、どうも縄文時代の後期か弥生時代の初めあたりに米と一緒に大陸からきたらしい。
 ご記憶の方も多いだろうが、昔は教科書で仏教伝来にともない大事な経典をネズミから守るために大陸からつれてこられたと書いてあった。

 何か説教くさいとおもっていたが、やはり宗教より食べ物のほうが最初だったのだ。
 ちなみにこのころ米とネコと一緒にスズメも日本にやってきたらしい。あのありふれた小鳥は日本列島の在来種ではなかったということだ。
 
 これからネコは大変な勢いで日本人の生活の中に入ってくる。

 読者のみなさんはイヌとネコとでは、どちらが多く飼われていたか、またその割合はどのくらいのものであったか想像がつくであろうか。数年前、アメリカ合衆国ではじめてネコの飼育頭数が1億匹をこえてイヌを追い抜いたというニュースがあった。開拓民の国アメリカでは、長らくイヌの方が圧倒的に多かったのだ。
 ハリウッド映画を観ても、やはり家庭にいる動物としてはネコよりイヌのほうが多く出てくる。

 では、日本ではどうだったのか?

 時代や地域によっていくらかの差はあるものの、日本ではずっとネコのほうが多く飼われていたらしいのだ(現在は約1300万匹という)。
 江戸時代の末から明治以降まで、日本にはじつにたくさんの農村の記録が残っている。
 それらを総合すると、犬が飼われているのはだいたい10軒に1匹ほどの割合だったのに対して、ネコはほとんどの家、95パーセントほどで飼われていたという。


画像©歌川国芳「鼠除けの猫」





 
なぜネコを飼ったのか?
 
 最初のほうにいったように、ネコはまず食料の番人として飼われはじめた。だが、その後すこーしずつ様子が変わってきた。今ではあまり理解できないだろうが、昔(昭和の中頃まで)人間の赤ん坊は、時々ネズミに襲われていた。
 エッ! と思われるかもしれないが、農家の繁忙期などで赤ん坊から目を離した隙に、ネズミがエサとして無抵抗の子供の頭や母乳のにおいの残る口元をかじり取るという痛ましいことがおこっていたのだ。

 ネズミから子供を守るのは当然ネコの役目であり、東北などでは子供をくるんで寝かしつけた大きなザルの横に、やはり布団をしいたネコのためのザルを置いていた。
 国語学的にいえば、ネコのコは、子供のコと同義である。つまり親から生まれたものとか、それに準じたものということである。

 ネコは本当の子供を守るために、人に飼われた養子という意味合いもあったのである。今でも土地によっては猫塚というものが残っている。
 昔は子供が死ぬとその亡骸は、村の近くの二股の辻に埋めた。あの世の、極楽に通じる道である。

 時代が下がるとその同じ場所に、今度はネコたちが葬られるようになった。子供を守ってくれた養子だからである。
 この風習はかなり長くつづいていたが、人の子が墓地に埋葬されるようになると、やがて二股の辻には猫だけが埋められ、そこに慰霊の塚が作られるようになったのだ。
 
 さて、ネコが広く日本で飼われるようになった大きな理由が実はもう一つある。(【下】に続く

(光益 公映 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)
 
トップ画像©西川祐信「源氏物語図 若菜上」

 

 

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