「バンビ」 

投稿 タマリンさん

20代男性B君から聞いた話である。

B君は20代後半、教育関係の民間企業に勤務している。入社3年目のことだ。所属する 部署内でずっと「末っ子」的存在だったB君に、初めての後輩となる新人が現れた。出勤すると課長に呼ばれ、見ると小柄な若い女性、まだ女の子と呼ぶのがふさわしいような女性がそこにいた。

二人で並んで課長の机に向かう。「新人のCさん」と紹介された。

彼女の方を向くと、「キョトン」という擬音そのままの表情で自分をじっと、下からまっすぐ見つめていた。とても小さい、ポニーテールの女の子で、肌は日焼けしたような小麦色。彼女としては普通なのかもしれないが、びっくりして見開いたように見える目で見つめられ、B君は圧を感じてタジタジになってしまった。

しかし、こちらがひるむのも一向に気にせぬ様子で、彼女はB君を見つめ続ける。B君はその目を見て思った。

「バンビだ」

小柄で、薄い褐色の肌色、そして大きな瞳とくるりとカールしたまつげ。それらがディズニー映画のバンビを思わせるのだった。

若手同士、仲良くなるのは早かった。Cさんは、上司に聞きにくいことをB君に聞いたり、そのお礼と言って机に向かうB君にコーヒーを差し入れたり。そして今度はそのお礼にB君からお茶に誘ったりと・・・。ハイトーンヴォイスで世間話や自分の話をするCさんは、明るくかわいい、どこにでもいる女の子だ。

社内での評判も悪くない。Cさんの教育係の中堅女性に聞くと、Cさんはとてもまじめで礼儀正しく意欲的。

「なんかねえ、私が説明しているとき、すごく静かだから気になってあの娘の方を見ると、じーっとこっち見つめてるのよね。一度や二度じゃないの。その都度、びっくりしちゃう」 「こっちが軽く流して話しているようなときも、すっごい目力でじっと見つめていて、なかなか慣れないわ、あれ」

そんなことを言ってその女性は笑っていたが、B君も心当たりがあるので一緒に笑った。

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Cさんが配属されて半年ほど経った頃、B君はそろそろCさんに「付き合いたい」と言っても良い頃ではないかと思い始めていた。新人としてもやや落ち着いてきたころだと思う。 そして、そのころはもう相手が自分対して悪くない感情を持っているだろう感触があった。

そんなある日、B君が社の小会議室で、一人プレゼンの資料を作っていたときのことだ。 かなり遅い時間になっていた。

「がんばってるね」

声に振り向くと、思った通り、Cさんがドアから上半身を傾けてのぞいていた。コーヒーを二つ持っていた。嬉しいタイミングだ。

「ラッキー、ちょうど気分転換したかったんだ」

Cさんは部屋に入ってきて、B君の向かいに座った。「進行状況はどう?」「 まあまあ、いい感じ」 そんなやりとりを交わす。




すると、B君は会話を続けるうちに、Cさんの仕草に気がついた。しきりに右頬を、親指と中指の爪で、つまんだり、引っ張ったりしている。高校生がニキビを潰そうとするような仕草だ。彼女はたまに小さな吹き出物ができて、そんな時にこの仕草をする。

「昨日、会社帰りにね・・・」

彼女は世間話をしながらも、ずっと爪の先で頬をちょんちょんとイジっている。 Cさんはふいに、爪先をぷちっと頬から引くと、何か引っこ抜いたその先をじっと見つめた。それはまさしくバンビの目だ。すると、自分の頬から引き抜いて、爪で挟んだなにかを鼻の先に近づけ、バ ンビの瞳で彼女はそれをじーっと見つめた。

そしてぺろっと長い舌を出して飲み込んだ。

B君は固まった。その舌は紛れもなく偶蹄類のような長い舌だったのである。『今のはなんだったのか? 自分は今なにを見たのか? 』、うろたえるB君に、Cさんはバンビの目をじっと向けた。

『ああ、告白はやめよう』そう思い、ひるみ続けるB君から、それでもCさんは目を離さない・・・バンビの瞳は一向にひるまなかった。

(山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©Sabine Löwer PIXABAY


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