若く美しくありたい 

40代女性から聞いた話です。

美江さん(仮名)は、中学生の娘が友達に自慢するほど華やかな雰囲気を持つ女性だった。自分の外見を磨くことに熱心で、流行や美容に気を遣っていた。

しかし所詮は中学生の母親。次第に鏡に向かうたび、自分の肌の衰えと年齢を感じるようになってきた。

美江さんは顔立ちが派手な分、小じわが目立ってしまうのがなんとかしたいところだった。 同じく娘の中学で、美江さんが一方的に意識している綺麗目な母親がいた。佐々木さんといって、聞くところによると上に大学生の子もいるそうなのだが、色白でエレガントな仕草や辺りを照らすような笑顔が特徴の女性だった。




保護者会の日、美江さんは佐々木さんに聞いてみた。

「奥さまとてもお綺麗ね。何か特別 なものでも使っていらっしゃるの? 」

いきなりの質問に驚いたように止まった佐々木さんだが、褒められて気を良くしたのか、品良く笑いながら答えてくれた。

「ふふ、使ってるわよ、とっておきなの」

聞くと、知る人ぞ知る、という、芸能人も御用達の美容皮膚科の美肌クリームがこの上なく良い働きをするそうなのだ。

「とおーってもお高いのよ。いやんなっちゃう。でもそれだけの効果はあるわ」

そう言って佐々木さんは輝く笑顔で会話を締めた。「お高いの」という言葉で美江さんの闘志に火がついた。残念ながら、結婚相手も暮らしぶりも、佐々木さんの方が美江さんより格上と認めざるを得ない。

しかし、もしも肌が若返ったら、美しさではきっと私が上だ。

数日後の夜。新品のクリームの瓶を持って、美江さんは鏡に向かっていた。これだけで 何万円もするクリーム。でも夢を叶えてくれるクリーム。指先につけると、しっとりとしたキメを感じる。

「これまで使ってきたものとは品が違うわ! 」胸を高鳴らせながら両手のひらにのばす。そして両手でぴったりと顔を包み、ゆっくりと沁みとおらせる。

『・・・え? あ、あ、痛い、痛い』




クリームがなじんでくるとともに、顔が痛く、熱くなってきた。まるで粉々に砕いたガラスの粉をなすりつけるような痛みが顔面を襲う。あわてて鏡を覗くと、何事もなく、いや、早くも肌はひとつベールをまとったように張りを持って輝いている。

「うそ!? なにこれ? 」

今度は喜びが込み上げる。まるで魔法だ。すぐにこれほど の効果が出るなんて。

『でも・・・それにしてもこの痛みはなんなのか? 涙目になってしまう』

しかし涙に滲んだ視線は鏡 の中の輝く肌の自分をとらえる。うれしい。でも痛い。うれしさと痛みで満足に眠れぬ夜を過ごした美江さんは、朝の洗顔でまた痛みを感じ、 我慢しきれず佐々木さんに電話でしてみた。

「この痛み、普通じゃない」
「そう? あれ、買ったの? いいでしょ? え? 痛み? 私は感じないんだけど」

佐々木さんは痛みなどないという。でも信用できない。あんなにすんなり、こんなにすごいクリームを教えてくれるなんて。親切なふりして、私をおとしいれようという魂胆かしら? そう思った美江さんは、今度はメーカーに問い合わせた。

「ごくまれに軽い刺激を感じられる方もおられるかも知れませんが、この製品に関しては そのような問い合わせは受けたことはございません・・・」

途中で電話を切ってしまった。佐々木さんもオペレーターも、本気で心当たりがなさそうなのだ。

効果は夢のようにうれしいが、この痛みはおかしい。痛みはなんかの警告だ。しかし止めたくない。昨日の今日で、すでに肌はさらに艶やかになっている。

その後、美江さんは自転車で近所の坂道を下降中、ちょっとしたはずみで転倒した。顔面から着地した美江さんは、鼻と額、そして顔の右側を大根おろしの要領でじゃりじゃり と地面にこすり、その後かなり長い間首から上を包帯でぐるぐる巻きにした生活を送ることになった。

美江さんは正しかった。痛みは警告だった。

(タマリン 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©chezbeate PIXABAY


 

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