啓蟄の夜の呪術「啓蟄打小人」

香港には「打小人」という特有の民間呪術の文化がある。

「小人」とは、自分の幸せの邪魔をする疫病神の事で、魑魅悪鬼のほか悪い噂や陰口の類から自分に不利益をもたらす具体的な人物まで、平穏な日常の邪魔になる鬱陶しい奴らの事をまとめてそう呼ぶのだ。小人に絡まれると、具体的な対人トラブルの他、なんとなくツイていないとか、仕事や対人関係、恋愛などに邪魔が入ったり上手くいかなくなる、他人に足を引っ張られる、イジメに遭う、悪口や悪い噂を流される…などの不具合が起こる。

香港の人々は小人の気配を感じたら、とある場所に集う呪術師たちに小人を打ち滅ぼす呪いを掛けてもらいに行く。






その場所とは、香港島の銅鑼湾の駅から徒歩5分くらいの所にある軒尼詩道(ヘネシーロード)と堅掌道高架道路(キャナルロード高架道路)が交差する鵝頸橋の高架下広場。ここは風水的にも気が交差するパワースポットだと言われている場所の一つである。ここには毎晩数人の「拝神婆」と呼ばれる呪術師のおばさん達が各自の祭壇を設置して露店のお祓い屋さんを営業しているのだ。

二十四節気の一つである啓蟄の夜(3月5〜6日頃)は最も術がよく効くと言われているので、この日は拝神婆の数も依頼人の数も増え、鵝頸橋の高架下広場だけでなく、廟の前の公園などにも多数の拝神婆が開業し、小人を祓ってもらう人で深夜までごった返す。

お祓いの為の祭壇には観音様や斉天大聖、布袋尊や関羽など救済や悪鬼調伏を担う神仏像とお供え物の果物やご飯などが比較的自由にディスプレイされており、仕様は一定ではない様子。拝神婆たちも特別なコスチュームを着ている訳ではなく、香港で普通に見られる微妙なセンスのおばちゃんファッションに身を包んでおり、気軽に客引きをしてくる者もいる。




高架下の広場とはいえ、大通りに面した繁華街のど真ん中。通勤客や観光客、地元の買い物客などの往来が激しい公衆の面前で小人を祓う儀式は行なわれるのだ。

まず依頼人は、声を掛けてきた、もしくは気に入った拝神婆を選んで祭壇の前に置かれたプラスチック椅子に座る。拝神婆から悪運やカルマを解く神符やお供え用の紙銭の束を渡されるので、そこに自分の名前と生年月日を書き、もし具体的な小人たる鬱陶しい人物がいたら小人用の紙にその人物の名前を書く。

パワハラ上司や恋仇、ライバルや個人的トラブルを起こした相手など直接の怨敵だけでなく、外国のテロリスト集団のリーダーの名前や、国内外の悪徳政治家の名前をリクエストする者も多いと言う。

描き終わったら蝋燭と三本の線香を渡されるので、着火して祭壇の神仏像に向かって三度拝み、香炉に立てる。拝神婆は男女の小人が書かれた紙をレンガの上に置いて「お前の頭をぶっ叩けば出世が出来なくなるぞ、お前の手をぶっ叩けば物を得られなくなるぞ…」と中国語で呪いの唄を吟じながら握りしめた古い靴でバンバンバンバン!と容赦なく叩きのめす。




小人の紙は一分もしないうちにぼろぼろになるので、それを紙で出来た虎の人形に抱かせ、虎の口元に脂の塊を塗る。これは悪口を広めないように口を閉じさせるおまじないだそうだ。

虎と小人の紙を、悪運やカルマを解く神符や祭祀用の紙銭に包んで、呪文を唱えながら清め用の豆や米を振り掛け、ろうそくで火をつけて燃やせば儀式は完了。時間にして約五分程度、お値段は50港元(約700円)ほど。

軽い厄祓いから本気の怨敵退散まで、香港の人々は気軽に拝神婆の元に訪れ、小人を打倒する呪いを掛けて貰うのだ。

(あーりん 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©あーりん


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