【実話 怖い話】亡者を待つ老婆 (前編)

武田さん(仮名)は関西の某鉄道会社に勤める、40代の男性である。

「いや、鉄道好きがこうじて、そのまま仕事にしてしまいました」

はにかみながら答える武田さん。もう会社に勤めて20年以上になる大ベテランである。

彼には今も忘れられない、不思議な思い出があるという。

「あれは、僕がまだバイト職員の頃でしたね」

当時、彼は関西の某駅で親戚の紹介でバイトをやっていたのだ。鉄道マニアであった彼にとって、この仕事は趣味と実益をかねた素敵な時間であり、日々大変充実していたという。

「あの頃は楽しかったね」

武田さんは遠い目をした。

当時、バイトと言っても駅の雑用係で、職員の指示する仕事はなんでもやった。だが、どんないやな仕事でも、自ら進んでやったので、彼は次第に職員にも信頼されるようになっていった。

「もう学校卒業後は入社するのが当然のように周囲も言っていましたね」

そう笑いながら答える武田さんに奇妙な出来事が忍びよる。




ある時、彼は改札前に佇む老婆に気がついた。腰は直角にまがり、杖をつき、目を細めている。

「おばあちゃん、どうかされました?」

耳が遠いのか、話しかけても答えない。

(なんだか変な婆さんだな)訝しんだ武田さんは、こっそり職員に相談した。

「あのおばあさん、毎日毎日改札で何やってるんですか」

「ああ、あれか、あのおばあちゃんは息子さんの自殺のショックで、惚けてしまってな、もう30年も改札前に毎朝立っているよ」
先輩の職員はうすら笑いを浮かべて答えてくれた。

どうやら、この駅や周辺の住民の間では有名な老女らしく、30数年前から毎朝、自殺した息子の帰りを待ちわびているのだという。

「つまり、気の毒なご老人ってこった」

ロッカーで着替えながら、先輩職員は付け加えた。まったく動物みたいな扱いである。

「酷い言いようだな」

先輩のつれない一言に、武田さんは頭にきた。(一体なんだ、あの言い方はないだろう。息子の死を受け入れられない老母になんて言いぐさだよ、まるで忠犬ハチ公扱いじゃないか)

以来、武田さんは、先輩への当てつけもあって、老婆に対して親切にした。雨の日は傘を貸し、熱い日には飲み物を差し入れした。

「おばあちゃん、傘貸すよ、雨に濡れると体に毒だよ」

武田さんは、まるで本当の祖母に対するような愛情ある態度で接した。それでも、老婆は黙って会釈するだけで、決して心は開かなかった。

こうして、1年ほどが過ぎた。




ある日の事、目の前で老婆が倒れてしまった。ピクリとも動かず固まっている。かなり危険な状態である。

「おばあちゃん、大丈夫?」

駆け寄った武田さんは、老婆の身体が異常に熱い事に気がついた。

「しっかりして。僕の言葉がわかる?」

武田さんは老婆を抱きかかえると、駅の事務所に運び込み、医者を呼んだ。医者を呼んでいる間中、武田さんは懸命に老婆を看病した。

老婆は病院で治療を受け、幸いなことに快復した。武田さんの思いやりは伝わったらしく、退院後、彼に挨拶に来てくれた。

「ありがとう、ありがとう」

何度も手を合わせて拝むと、老婆は自分の境遇を語ってくれた。

老母の息子は、30数年前に友人とこの町を出て行き、大阪で小さな会社を起こした。そして、その会社も順調に大きくなったのだが、友人と経営をめぐって諍いを起こし、ついには友人に会社を乗っ取られ、失意のまま鉄道自殺したのだ。

「わたしには、あの子がいつか帰ってくるような気がするんだよ」

そう言うと、老婆は幸せそうな顔をした。

それから、老婆は再び改札に立つようになった。毎日、毎日、再び老婆は立ち続けた。

しかし、その老婆はかつての老婆ではなかった。駅員にも近所の住民にも、愛想の良い人気者の老婆に変わっていたのだ。

≪後編に続く≫

(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)





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