【怪談実話】「鴉(カラス)」

これは今から20年ほど前にIさんが体験した話である。

Iさんは同時大学生であったが裕福な実家の援助もあり、1LDKというおよそ学生らしからぬ間取りのマンションで暮らしていた。そこは学校からも近く、非常に快適な部屋であったため、友達を呼んで飲み会をしたりと、初めての一人暮らしをIさんは満喫しながらすごしていた。

だが、一つだけ問題があった。




ある時から、ベランダに頻繁に鴉がやってくるようになったのである。鴉が来ると言っても何をするわけでもないのだが、ベランダに大きな鴉が陣取っている姿はIさんに何か異様な感じを抱かせていた。

ある日の深夜、Iさんは物音で目を覚ました。その物音は鴉の鳴き声であった。

(また鴉かよ。いい加減にしろよ)

そう思いながら、再び眠りに入ろうとしたのだが、あることに気が付いた。

(こんな夜中に鴉が鳴くもんなのか?)

時計を見てみると午前2時、ベランダに鴉がやってくるのも日中ばかりで、夜にやってきたことは今までなかった。そんなことを考えている間も盛んに鴉の鳴き声が聞こえてくる。

それはどうも1匹の鳴き声ではなく、相当数の鴉からの鳴き声のように聞こえた。

(いったい何なんだ?)

Iさんは次第に気になってきて仕方ない。ベランダの方に行き、カーテンを開けてみた。

すると、「ドン!!」という音と共に鴉がベランダの窓 に激突して来た。それは一度ではなく、5~6匹の鴉たちが代わる代わる窓ガラスに激突してくるのである。窓ガラスに激突して、ベランダに転がった鴉はすさまじいまでの鳴き声を上げ、Iさんに敵意をむき出しにして何度もガラスに激突してくるのだ。

幸い窓ガラスは厚みもあり、破られることはなさそうであったが、鴉の異様なまでの敵意にIさんは恐ろしくなり、カーテンを乱暴に閉めるとリビングへ逃げようと寝室を後にした。

「ドン!!ドン!!ドン!!」

そうして移動する途中にも鴉が窓ガラスに激突する音は、鳴りやむことなく続いていた。

(何だよこれ!)

そう思いながら、リビングの扉を開けて中に入ると何かを踏んづけた感触が足下に伝わった。

驚いて足下を見ると、それは鴉の死骸であった。しかも、それはリビングの床一面に転がっていた。

Iさんは気が狂いそうになり、絶叫しかけた時、目の前に真っ黒い人間のシルエットが立ちふさがった。目の前にいるのに、性別や容姿すら確認できない黒い人間の姿。その目は黄色く濁り、焦点のあわない視線でこちらを見つめていた。

Iさんはあまりのことに気を失い、気が付くと自分のベッドにいた。

(良かった!夢だったんだ!)

鴉の死骸を踏んだ足の感触だけは確かに残っているような気もするが、全ては夢だということで、忘れようとした。

その日の夜 家族から電話があった。

電話の内容は、ひどい痴呆になっていて、ある日家を飛び出したきり行方不明になっていた祖父が遺体で発見されたという連絡であった。遺体は、野犬や鴉に食われボロボロで、そして、目玉は 黄色く腐っていたという。

Iさんの祖父は一代で大きな会社を築きあげた凄腕の経営者であったが、その影では多くの人間から強い恨みを買うようなこともしていたのだと父から聞いていた。

もしかしたら、そうした恨みがひどい死に際を引き寄せ、その断末魔で助けを求める強い想いが、自分にあのような現象を引き起こしたのではないかとIさんは考えている。

(聞き取り&構成 山口敏太郎タートルカンパニー ミステリーニュースステーション・アトラス編集部))





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