妖怪・幽霊

【実話怪談】女がくる・・・

東京郊外の精神病院での事、妄想に悩まされる患者が入院しました。患者は毎夜「おんなが来る」と言っては物を投げつけたり、器物を破壊したりするので、困りはてた家族により強制的に入院させられたのです。

昼間は温厚な患者でした。本を読んだり、音楽を聞いたり、一見インテリの中高年管理職といった感じです。しかし、それが夜になると一変するのです。髪をかきむしり、首すじに血管を浮かばせ、転がり廻っては絶叫するのです。

「頼む、助けてくれ、女がくる。女がくる」

こういう時はなだめすかし、密室のドアを閉めそのまま寝かしつけました。

「女なんかいないですよ」「落ち着いて下さい」




そして鎮静剤が効きだすと患者は(すやすや)と寝息をたてるのでした。元々この患者が心のバランスを失った理由は愛人の OLが自殺してからでした。別れ話のもつれが原因とも言います。それ以来、罪の意識からでしょうか。「女が来る」と錯乱するようになったのです。

ある朝、私は患者の腕に奇妙なひっかき傷があるのを見つけました。

「これは、どうしたの」

患者は無気力にこう答えました。

「女がやったんだ」

ばかな密室に女など入り込む事ができるわけない。自作自演だ。私はそう思いました。それ以来、患者は私達の気を引くためでしょうか。しばしば身体に傷をつけていました。この種の患者にはよくある事です。また女がやったとでも言うつもりか。私は深く気にも止めませんでした。

そしてある朝、私は見たのです。自分の首を引きちぎり、両手で持ったまま息絶えている男を。こんな恐ろしい事を自分で自分にやったのでしょうか。それとも女が来たのでしょうか。

(ミステリーニュースステーション・アトラス編集部)