東北幽霊譚 被災地の幽霊 輪番停電を恨む呼吸器の音





筆者こと宇田川敬介は、今年3月26日に「震災後の不思議な話 三陸の<怪談> 」を飛鳥新社から上梓した。 この本は、ただ単純に「怖い」という怪談を集めたのではなく、実際に現地で語られている「怪談」の中から、東北の人となりを示していたり、あるいは、東北の復興を望んでいる様々な「存在」を、何らかの形で書き残さなければならないという、そんな気持ちを込めた本である。

当然に、被災地の幽霊譚をすべて紹介することはできない。被災地のとある町の助役さんは「犠牲者の数だけ怪談があるのではないですか。急に津波が来て引き込まれてしまったから。死んだことすら気づいていない霊も少なくない」という。

さて、これから、その様な「被災地の話」を順番にお話ししてゆこうと思う。

今回は山形県から。

山形県は、震災といっても震度3の地震があった程度で、当然に津波の被害などは無かった。実はそんなところにも震災の怪異譚が存在する。

3月11日に震災があり、翌日より「計画輪番停電」があったのだ。覚えている人もいるであろう。「輪番停電」とは、電力の供給に問題があり、電力が少なくなってしまったために、地域ごとに順番で停電させるというものである。なぜそんなに電気がなかったのかといえば、それは民主党政権のエネルギー政策の問題と相次ぐ災害にあったといえる。民主党政権は、鳩山内閣の時に国際公約として温室効果ガスの大幅削減を発表した。それに伴って、火力発電所を廃止し、原子力発電所を推進したのである。火力発電所は次々廃業に追い込まれ次に稼働させるまでに時間がかかった。そして、3・11の前年に発生した大雨の影響で、東北、特に山形・福島・新潟の各県の川が氾濫し、その影響によって多くの水量発電所が使用不能になっていたのだ。

このことによって「輪番停電」を行うようになり、大手の病院などでは、自家発電装置を動かすようになった。

山形県のスイカで有名な市街では、近くに大きな病院がないことから自宅で療養する患者が少なくなかった。自宅に人工呼吸器等を持ち込み、その呼吸器をつけて生活をするのである。大手の病院であれば、自家発電装置があったが、このような人の家では、「輪番停電」は「死の宣告」と言っても過言ではなかった。それでも、町内会などが協力して、停電のないところまで、患者や機械を運んだりして対応したのである。

しかし、3月の山形県である。雪も多く、また高齢化も進み、全てに手が行き届いていたわけではない。そのような中、一人の方が「輪番停電から避難」が遅れてしまったのである。

大変残念なことに、その方は亡くなってしまった。翌日、近所の人が見に来たときには、人工呼吸器は再起動して動いていたが、その人は人工呼吸器の方に手を伸ばしたまま亡くなっていたという。身寄りがなかったので、と町内会で、ささやかな葬儀を行い遠縁の方に遺品を引き取ってもらった。
葬儀が終わってから一週間後、近所の人々が怪訝な表情を浮かべるようになった。

「なんだか、呼吸器の音がするんだよね」

人工呼吸器は、「スー・ハー」という音がする。しかし、家の外まで響くような音ではない。そして、人工呼吸器は命の危険を伴うので、泊まるときに「ピー」と大きな音がする。なぜか、その亡くなった方の家の近所ではその「スー・ハー」としばらくして「ピー」という大きな音が響くという。それも、あの日の輪番停電が始まった時間に音が鳴るのだというのだ。

「それもね、NHKのニュースであの政治家が出たときに、その音が鳴るんですよ。よほど輪番停電を恨んでいたんでしょうね。まさか、津波からこんなに離れたところで地震の犠牲者が出るなんて」

近所の人は悔やんでも悔やみきれない状態で、毎日あの時間に人工呼吸器の音を聞いていたという。

文:宇田川敬介(作家・ジャーナリスト)




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