妖怪というと、昔から日本各地に残る伝説や昔話に登場するものというイメージが強いが、現代の噂から産まれる妖怪も多い。特に近年ではインターネット等情報網の発達により、今までにないスピードで噂が伝播していき、妖怪の存在が実在生を持って語られるようになっている。

 近年ネットで流布されている妖怪には、「ヒサル」という怪物が存在する。他にも「ヒサユキ」「忌被猿(キヒサル)」「被猿、飛猿(ヒサル)」「飛猿鬼(ヒサルキ)」と呼ばれており、伝承されている地域によって名前や性質が微妙に違うようだ。

 大体共通する情報としては、この妖怪は動物に憑く憑き物と言われ、一説には人間にも憑依するというのだ。しかも、憑依された生物は「ヒサル」によって肉体や精神を支配されるようになり、凶暴な性格に変貌、大暴れをして銃で撃たれても死なないようになるという。しかも、脳を支配されていることから、異常な怪力や身体能力を発揮する場合もあり、周囲に及ぼす被害は甚大だという。

 この「ヒサル」に関してだが、「とこのす」という名前で酷似した内容を聞いたことがある。戦争中、ある医者が息子が「とこのす」に憑依され、脳を支配されてしまったので、息子を殺したという話であった。都市伝説と言えどもにわかに信じられない話ではあったが、かつての日本には、このような憑物が現実として語られていた時代があったのだ。

 筆者はネットで、この妖怪「ヒサル」の名前を見たとき、昭和10年に佐藤清明氏が発表した「現行全国妖怪辞典」に記載がある幻の妖怪「ヒーヒザル」を連想した。昆虫学者としても有名な佐藤清明氏は、日本で初めて妖怪辞典を作った人物であるが、妖怪にも詳しく、昭和初期に「ヒーヒザル」を憑物として報告しているが、その詳細な情報は不明であった。この同書には「病人に憑き無神経にさせる。岡山県御津郡」と記載がある。筆者は長くこの「ヒーヒサル」という妖怪に関して、どういう妖怪なのか気になっていた。

 特にこの無神経という部分が気になる。「ヒサル」は銃で撃たれても、内蔵が飛び出ても平気で動き回ることができるという。つまり、佐藤清明氏いうところの無神経とは、「ヒサル」に憑依されることでゾンビ化するという意味であろうか。

 それにしても、ほとんど、各地で数人の老人しか記憶していないようなマイナー妖怪が、ネットで流布されることで、一気にメジャー妖怪となり現役の魔物として復活するとは驚くべき時代である。因みにこの人間の脳を破壊する「ヒサル」だが、正体はいったいなんであろうか。筆者は、脳に寄生する生物ではないかと推測している。昨年、脳に23cmの有鉤嚢虫が寄生している患者が中国で確認されている。この患者はカエル鍋を食べたことから寄生されたということだが、未知の寄生虫が人間の脳をヒサル化する可能性がないとは言えない。




 


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