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金正恩第一書記に影武者!その2 影武者を作る理由と北朝鮮争乱

【前半より続く】

シンガポールに脱北した北朝鮮の元高官の発言から、金正恩第一書記に、彼が確認しただけでも15人の影武者がることが明らかになった。詳しくは前回の記事【発覚】金正恩第一書記に影武者!その1 影武者の見分け方は!?をお読みいただきたい。




さて、日本人の我々には、おの影武者は「暗殺防止」とくに「アメリカの暗殺部隊から本物の金正恩第一書記を守るため」というように感じてしまう。例えば、アメリカの特殊部隊は、イラク戦争においてサダム・フセイン大統領を追い詰め発見し、そのまま拘束した。アメリカに搬送し「人道に対する罪」そして何よりも「アメリカ人に対する無差別殺人」を理由に死刑にしているのである。

また、国際テロ組織アル・カイーダの首魁であるウサマ・ビン・ラディンに関しても、パキスタンで愛人宅(一説にはイスラム教特有の一夫多妻制における最新の妻の家)に滞在しているときに襲撃し、そのまま殺害している。もちろん、これらの関しては、公開処刑されたりあるいは死体の写真が公開されたわけでもないので、さまざまな陰謀説や、生存説が流れているが、少なくとも北朝鮮において、そのような陰謀説屋生存説が流れていないので、そのことをここで議論することはあまり意味はない。北朝鮮の人々、特に上層部が「アメリカ暗殺説」を信じていれば、それに対して予防的な措置を行うのは当然であり、そのことに関して、「影武者」を作ることは十分に考えられることである。

さて、しかし、その割には「影武者の作り方が荒い」感じがする。単純に、「テレビなどの映像を見て簡単に見分けられる」というのはいかがなものか。当然にそれくらいのことであれば、アメリカのCIAなどはすぐに見破っているはずである。その上で米韓軍事演習で「特殊部隊」の訓練をしているということは想像に難くない。このへんはいったいどのようになっているのであろうか。ましてや、そのような「荒い影武者が15人」もいても何の役にも立たないのではないか。

前出のシンガポールに脱北した北朝鮮の元高官に話を聞いてみる。会話は、前回の続きからと思っていただきたい。

「そもそも、15人も影武者は必要なのか?」
「必要ない。」

「ではなぜ、15人もいるのか?」
「必要なのではなく、15人もできてしまった、というのが正しい」

「どういうことか?」
「あまり難しい話をしたくはないが、そもそも金正恩第一書記はすでに政治の第一線から退いている。アメリカのバスケットボール選手を二回も呼んで喜んでいる間に、北朝鮮の労働党・人民解放軍・秘密警察の各トップが結託し、北朝鮮上層部におけるクーデターが行われた。そのために金正恩第一書記はすでに監禁状態になっている。その上糖尿病ということで足の指を切断され、身体の自由を奪われている」

「金正恩第一書記が、いまどのようになっているのか?」
「わからない。しかし、現在たぶん病院などにおいて軟禁されているのではないかと想像される」

「では、誰が今北朝鮮の政治を行っているのか?」
「北朝鮮の政治は、何をもって政治というのかがまずは問題だ。内政は労働党が、規律は秘密警察が、外交と軍事は人民解放軍が行っている。その三つの勢力がそれぞれに自分の持ち分を行いながら、その三つの勢力の次席クラスが連絡を取り合って行っている。」

「では、今ミサイルの実験や核実験などを行っているのは誰が行っているのか?」
「多分、人民解放軍が行っているのであろうと推測される」

「金正恩第一書記はそれに関して何も言わないのか?」
「多分報告はしているであろう。しかし、実際に第一線から引いてしまっているので、報告をして、その内容に何らかの感想を述べるだけで、それ以上の示唆はない。あっても上層部が都合が悪ければ握りつぶしてしまっているであろう」

「では、影武者はなぜそんなにたくさんいるのか?」
「労働党・人民解放軍・秘密警察各々が自分の都合のよいことを言う『金正恩第一書記』を必要としている。北朝鮮の人民はまだまだ金正恩第一書記の治世を望んでおり、ほかの勢力の名前では誰も納得しない。人民の反乱を起こさないためには金正恩第一書記が必要だ。そのために、金正恩第一書記の影武者を各々が作るようになる。本物は、足を説安して歩けない。2014年9月は片足を引きずっていた金正恩第一書記が10月には走り出す勢いでいることに不思議に思う人がいないことの方がおかしい。しかし、北朝鮮の人民は、金正恩第一書記が元気になったと思って喜ぶ。それを影武者を作った人々は期待しているのだ」

「では、どうやって15人も作るのか?」
「2015年夏に、北朝鮮の男性がすべて金正恩第一書記と同じ髪形にしたことがあった。同じ髪形にして、似ている人をスカウトし、そして、整形手術を施して影武者を作る。130キログラムにもなる金正恩第一書記の体系を維持するのは大変で、一般の生活をしていたら、食事の面でその体系は維持できない。そのために、隔離して、食事を与え続ける。そうやって体系を維持し、背丈が足りない場合は、靴の下に敷物をしてごまかし、そうやって、必要なときにもっともイメージにあった金正恩第一書記を作り出すのだ」

「そのようなことでアメリカをだますことができると思っているのか?」
「言ったように、アメリカや中国をだますために影武者を作っているのではない。北朝鮮の人民をだますために、クーデターをした人々が影武者を作っているのだ。」

「政府高官がたくさん粛清されているが、あれはどのようなことか?
「当然に、金正恩第一書記の派閥の人や、クーデターを良しとしない人、クーデターまでは良かったがそれからの運営方針に不満がある人などを次々と粛清してしまっている。金正恩第一書記であれば、そこまで行う必要はない。就任後すでに粛清は終わっているから、居間になって1500人も粛清する必要はないのだ。」

「では、今後もクーデター政権が、北朝鮮の政治を行うのか?」
「それはわからない。北朝鮮の中には、まだまだ金正恩第一書記を慕っている人も少なくない。いつその勢力が盛り返さないとも限らない。実際に、私もそのクーデターが嫌で、怖くなって脱北した。そのような勢力が戻れば、金正恩第一書記の政治に戻ることもありうる。先のことは全くわからない」

以上が、大体の内容である。

さて、この内容に関して信じる信じないは、自由である。しかし、例えばあれだけアメリカ人バスケットボール選手が入国したり、あるいは、ワールドカップの予選で日本の選手の応援を行う人が北朝鮮に入国をしていたにもかかわらず、昨年以降、そのような動きが全くなくなってしまった。この北朝鮮の脱北した高官の話は、そのような「政治情勢」や「北朝鮮の政策の変更」なども、十分に説明できる内容になる。単純に「金正恩第一書記の気まぐれ」だけでなく北朝鮮の変貌を説明するのは、このようなところからではないだろうか。

何度も言うが、信じる信じないは自由である。また、にわかに信じられない部分も少なくないし、簡単に信じて今まで日本は煮え湯を飲まされている過去もある。しかし、情報の一つとして、考えておくことは必要なのではないか。

文:宇田川敬介(作家・ジャーナリスト)

金正恩