妖怪・幽霊

心優しい女性の言い伝えが残る地から心霊スポットへ 「おせんころがし」の逸話

千葉県の有名な心霊スポットの一つに「おせんころがし」という場所がある。

急峻な断崖で昔から交通の難所と知られており、過去には転落死亡事故や投身自殺も多かった。更には1951年にはこの場所を舞台にした連続殺人事件が発生し、より験の悪い土地とみなされて心霊スポットとされるようになってしまったようだ。




だが、本来「おせんころがし」は世の無常さを想起させるような場所ではなく、むしろ逆の性格を持つ伝説が語られていた土地であったという。

この地には、昔おせんという若い娘がいた。彼女の父はこの一帯を治める豪族だったが、村人に重い年貢を科して厳しく取り立てていた。彼女は重税に苦しむ村人の事も、強欲な父親のことも憂えていたが、ついにある時、村人達は彼女の父親を殺すことを決意する。

父親をす巻きにして崖の上から突き落とそうとしているのを知った彼女は、どうやってか隙を見て父親と入れ替わり、崖の上から突き落とされてしまった。翌朝になってようやくその事実を知った領民達は悲しみ、また強欲だった父も心を入れ替えた。そして、彼女の供養のために地蔵尊を建てて大切に供養したという。




「おせんころがし」という地名は、この伝説に由来する。他にも「病弱な父のため、薬草を採りに行ったおせんが、過って転げ落ちてしまった」、「美しい娘だったおせんを取り合い、競争をした若者2人が共に命を落とす結果となり、悲観したおせんは自ら身を投げた」など、様々な話が伝わっている。

このように「おせんころがし」は、本来は人をいたわる心を持った女性の伝説が残される土地だったのだ。無惨な事件や繰り返される死は、被害者や遺族など関係者の人生を狂わすだけでなく、その土地が持つ性格すらも変えてしまうのである。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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