妖怪

【怪奇伝承】「水神の祟り」

 佐渡の加茂村に武右衛門という男がいた。言い伝えによると、武右衛門は広大な田畑を所有する大層な長者であったと言われている。つまり、俗に言う地元の有力者というやつである。しかし、これだけ裕福になって人間の欲望にはきりがないようだ。武右衛門は、更なる金儲けを考えていた。

「あの湖をうめれば、広大な土地ができる。また俺は大儲けできるぞ」

 村の付近に大きな湖があったのだが、武右衛門はその湖を埋めたてさらなる新田の開発を考えていたのだ。そして、用意周到に村内の人々、村役人への根回しも終えて、3年後、役所の許可も無事おりた。

(ふふっここまでは、完璧だな)




 ほくそ笑む武右衛門は湖を埋め、広大な新田を開墾した。

 ある年の春の事。長江川の堤を武右衛門が村の者4、5人と連れだって歩いていた。どうやらある会合の帰りだったらしく、武右衛門はひどく機嫌が良かった。

 するとそこに一人の美女が現れた。随分と上品な身なりの女である。村の女にはない独特の色気に満ちている。女は蚊がなくような声で言った。

「もし、釜屋村まで帰りたいので一緒に歩いてくれませんか」
「おおっいいとも、私らは一向に、かまいませんよ」

 武右衛門は喜んで女と並んで歩き始めた。

 女と武右衛門は村の者をおいてどんどん先に歩いていく。さっきまで千鳥足だった武右衛門が女と歩き始めてから、急に早足になったみたいだ。




「なんだ、旦那もすっかり女に夢中になっているよ」
「旦那も美女にかかればからきし駄目だな」

 しばらくすると4,5丁先に二人の姿が月明かりに見えた。

「あれ、もうあんなに遠くをあるいている」
「よく見ろよ。あれは湖の上じゃないか」

 確かに、よく見ると水面を二人は歩いている。武右衛門は何かに魅入られたのであろうか。震え上がる村人を残し二人の姿は消えてしまった。

 翌日 武右衛門の溺死体があがった。人々は埋立が水神の怒りをかったのだと噂しあったそうだ。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

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