嵐の日、夜空を駆ける狩猟者たち「ワイルド・ハント」





ワイルド・ハントとはヨーロッパのほぼ全域で伝承が残されている、空を駆ける狩猟者たちの群れのことである。

語られる地域によって、これを率いる者は異なる。この伝承が生まれたとされる北欧神話では主神のオーディンやトール、イギリスの伝承ではアーサー王や海賊のフランシス・ドレイク、フランスではグリム童話で語られた「ホレおばさん」という魔女のような存在などが率いているとされている。

また率いられる狩猟者も多種多様で、オーディンの場合は死んだ英雄や悪魔、アーサー王の場合には猟犬、ホレおばさんの場合には子供たちなど、それぞれ異なった姿で語られている。

ワイルド・ハントは嵐の夜に現れ、凄まじい音を発しながら空を駆けていくが、この一団が現れるのは大災害や戦争、大恐慌などが起きる予兆だと言われている。

ハントの言葉が示す通り、彼らは狩りを行う。穢れた者や罪深いもの、洗礼を行っていないものを標的として、彼らを見つけると地獄へ引き連れて行ってしまう。また、彼らに敬意を払わぬ者に対しても容赦のない攻撃を加える。

例えばイギリスではこんな逸話が語られている。

ある夜、農夫が馬に乗って帰宅していると、吠え声をあげながら夜空を駆ける猟犬の群れを見た。その中には猟師の姿もあった。農夫はぶしつけにその猟師にこう声をかけた。

「今日の獲物はなんだ? その獲物をおれにも分けてくれ」




すると、猟師は農夫に袋を投げつけ、去って行った。農夫は喜び、家に帰って中身を確かめてみた。袋を開けてみると、中に入っていたのは農夫のまだ幼い子供の死体だった。

このように敬意を払わない者に対し残酷なまでの仕打ちを行うが、姿を見ただけでも目撃者は近いうちに死ぬとも言われている。

古代ゲルマン民族の間では、現在のクリスマスにあたる時期に暴風が吹き荒れたことから、この時期にオーディン率いるワイルド・ハントが現れると考えていた。

日本のお盆のように、この頃に故人も帰ってくるとされ、故人が好んだ料理を用意し、乗り物に困らないよう馬の手綱を解いたという。また子供たちはオーディンが乗る8本足の馬スレイプニルのために靴を用意し、その中に干し草や砂糖を入れて暖炉のそばに置いた。

オーディンはお返しに子供たちに贈り物をすると言われており、一説にはこれがサンタクロースの起源となったのではないかとも言われている。

(山口敏太郎 ミステリーニュースステーションATLAS編集部)

画像©Wikipedia 『ワイルドハント』ペーテル・ニコライ・アルボ作

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